第一回は、平次自身はまだ本格的に動かず、八五郎が「たまたま引き受けた探索」の中で“べら棒御曹司”=献太郎という奇妙な少年と出会います。
この献太郎、口は悪いが愛嬌があり、しかもどこか「武家の子息」らしい品や、姉を守ろうとする健気さが漂います。周囲の百姓からは蛇蝎の如く嫌われていますが、その裏には「姉を取り戻したい」という切実な思いがあります。
一方、宇古木左近の屋敷はまるで要塞めいた構造を持ち、しかも金の出所が怪しい。「江戸時代には謀反(企て)の資金洗いか」「仲間を裏切って莫大な利益を得たのか」といった、捕物帖らしい陰謀のにおいも濃厚に漂います。
こうした“暗い秘密を抱えた豪邸”に対し、八五郎がどこまで踏み込めるのか。そして、献太郎が言う“面白いこと”=騒動の火種は何なのか。
とはいえ、物語は第一回、まだまだ続きます。
1. 銭形平次(ぜにがた へいじ)
町方の御用聞。八五郎の「親分」。
「銭形の平次」として知られ、普段は江戸の様々な事件を解決している名うての御用聞。
2. 八五郎(はちごろう)
銭形平次の子分。
退屈しのぎに「山吹御殿」の探索に赴く。高田村の茶店で“べら棒御曹司”と呼ばれる悪戯少年を助けたことがきっかけで、事件の核心に近づいていく。
欠伸に節がつくほどの呑気者だが、気っぷがよく素直な性格。
3. 宇古木左近(うこぎ さこん)
「山吹御殿」と呼ばれる屋敷の主人。
貧乏が看板のような“公卿侍”の出身とされるが、江戸に来てから金を湯水のようにつかい、大邸宅を構えている。謎めいた金の出どころや、“裏切り”“謀反”といった嫌な噂が絶えない人物。
公家筋の用人あがりとも言われるが実態は不明。周囲から警戒されている。
4. 宇古木南七(うこぎ なんしち)
宇古木左近の弟。
武芸の達人だという評判がある。
兄・左近とともに“山吹御殿”の不穏な雰囲気に一役買っている可能性がある。
5. 坪兵馬(つぼ へいま)
宇古木左近の家来、用人に近い存在。
もとは易者(陰陽師)の出だという噂がある。学識や策略に通じた「軍師」めいた役割を果たしている。
八卦や占いなど、不思議な手段で物事を見通すとも言われるが真偽は不明。
6. “べら棒御曹司”/献太郎(けんたろう)
「山吹御殿」に居候する少年。お京の弟。
13~14歳ほどの美少年だが、悪戯好きで口が非常に悪い。村の畑を荒らしたり閻魔大王像を引きずり回そうとするなど、大人顔負けの度胸を見せる。 一方で、姉を慕う気持ちは強く、彼女を救おうとしているようにも見える。
「べらんめえ口調」が災いし、村人からは憎まれるが、その真意は姉を守りたい一心と推測される。
7. お京(おきょう)
献太郎の姉。宇古木左近の屋敷にいる女性。
謎の手毬唄「宇古木節」にも登場する美女。屋敷の二階に閉じ込められているようで、ほとんど自由がない。宇古木左近から嫁にしたいと迫られているのを頑なに拒んでいるらしい。
公家の血筋を引くとされ、弟・献太郎同様、華やかな素地を持つが、不遇の身の上にある。
8. 茶店の老婆
姿見橋近くで茶店を営む老女。
一人暮らしだが、気の合いそうな旅人や通り客を泊めることがある。過去に「山吹御殿」を狙う浪人たちがしばしば訪れたせいで、屋敷周辺の噂や事情に通じている。
人を見る目があり、八五郎の気質を買って、色々と裏話を教えてくれる。
9. 蟹丸(かにまる)
高田の百姓・職人衆の一人。
献太郎の度を越した悪戯に怒り、他の仲間と共に彼を懲らしめようとしていた。
「平家蟹」に似ているというのがあだ名の由来。献太郎が最も苦手とする存在の一人。
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■べら棒御曹司は、
昭和29年に報知新聞に連載されました。シリーズとしては、334作目に当たります。