心房細動のカテーテルアブレーション治療のメリットとデメリットを循環器内科医が解説
はじめに
私は都内で循環器内科のクリニックを開業しています。みなさんは心房細動という言葉を聞いたことはありますか?心房細動は、心臓のリズムが不規則になる病気で、動悸や息切れ、倦怠感などの症状を引き起こします。また心不全や脳梗塞のリスクが高まるとされています。そこで注目されているのが、カテーテルアブレーション治療です。カテーテルアブレーションは、心臓の中の異常な電気信号を出す部分を焼灼したり凍結させたりすることで、心房細動を根治させることを目指す治療法です。
私は病院勤務の頃は心房細動のカテーテルアブレーションに携わり、今も患者さんに心房細動のカテーテルアブレーションの説明を日常的にしています。本日は、このカテーテルアブレーション治療について、メリットとデメリットを詳しく解説し、皆様の理解を深めていただきたいと思います。
心房細動とは
まず、心房細動について簡単にご説明します。
心臓は4つの部屋で構成されています。心臓の上の部屋を心房と呼びます。心房には左房と右房があります。心房細動は、心臓の上の部屋である心房が、規則正しく収縮できなくなる状態です。心房が細かく動くので心房細動と呼ばれています。通常、心臓は規則正しく拍動することで、全身に一定のリズムで血液を送り出しています。しかし心房細動になると、心房が細かく震えるように収縮し、心拍数が不規則になります。そのため脈が早くなることが多く、動悸を生じやすいです。また心房細動が持続すると、心臓の機能が低下してしまい心不全を起こしてしまいます。
では症状がなくて心不全を起こさない場合は放置していいのでしょうか?心房細動の一番怖いのは脳梗塞のリスクになることです。心房の中で血液がよどんでしまい、血液の塊(血栓)が起きるとされています。血栓が何かの拍子に血流に乗って流れてしまい、脳の毛間に詰まると脳梗塞を起こします。心房細動で症状がない人が急に脳梗塞になってしまい身体の片方が麻痺を起こしてしまったり会話ができなくなってしまう、もしくは命を落としてしまうことがあります。有名人だと長嶋茂雄監督、小渕元首相、田中角栄元首相、サッカー日本代表の前監督オシム監督、西城秀樹さん が挙げられます。
ここ20年の心房細動の治療の変換として
1 血液サラサラの薬の進歩
2 カテーテルアブレーション治療
が挙げられます。かつては心房細動に対して脳梗塞のリスクとなることがあまり知られておらず、血液サラサラの薬を使うことが少なかったと言われています。またワーファリンという薬のみしか使用できませんでしたが、非常にコントロールが難しく効きすぎて脳出血や消化管出血を起こすことが多かったです。2011年にダビガトランという薬が発売されたのを皮切りに、現在は直接経口抗凝固薬(DOAC)という薬が主流になっています。ダビガトラン(プラザキサ)、エドキサバン(リクシアナ)、リバーロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)の4種類が日本では使用されています。より安全に血液サラサラの薬を投与できるようになり、心房細動による脳梗塞が減少しました。
前置きが長くなりましたが、本題であるもう1つのカテーテルアブレーション治療について解説します。
アブレーション治療とは
アブレーション治療は、カテーテルと呼ばれる細い管を血管から心臓内に挿入し、異常な電気信号を出す部分を焼灼したり凍結させたりすることで、心房細動を根治させる治療法です。
この治療は入院で行います。医療機関により異なりますが、局所麻酔や静脈麻酔が使用されることが一般的です。「寝ている間に終わった」ということが多いと思います。所要時間は2-3時間、入院日数は4日程度が一般的です。退院後の制限もあまり多くはありません。足の付け根の管を入れた部分から再出血の恐れがあり、退院後1週間ほどは負荷の強い運動は避けるよう指導している医療機関がほとんどだと思います。その他デスクワークなどは退院後から可能と思います。
カテーテルアブレーションの手術の流れは下記のようになります。
1 カテーテル室に入り点滴や麻酔を行う。ほとんどの人はここからの記憶はありません。
2 静脈からカテーテルの挿入を行う。足の付け根や首の血管、肩の血管から針を刺してカテーテルという管を挿入します。
3 心臓へカテーテルを挿入する。レントゲン装置を確認しながらカテーテルを心臓の中に挿入します。心房細動は左房という部屋の治療が主です。左房にアプローチするため、右房と左房の間に穴を開けます。この穴はカテーテルアブレーション後も臨床的な問題を引き起こすことはないとされています。
4 異常な電気の部位を治療する。心臓の中の異常な電気の部位を治療します。患者さんの状態により異なりますが、まずは左房の肺静脈との接合部を治療します。電気を用いて治療することもありますし、風船を用いて冷凍する治療もあります。
5 カテーテルを抜いて、止血して終了となります。
アブレーション治療のメリット
アブレーション治療のメリットとしては、以下の点が挙げられます。
・心房細動の根治が期待できる: 多くの場合、心房細動を根治させることができます。薬にはない効果と考えられる。薬はあくまで対症療法となる。
・生活の質の向上: 動悸や息切れなどの症状が改善し、日常生活の質が向上します。
・心不全や脳梗塞のリスクの低下: 心房細動による心不全や脳梗塞のリスクが低下します。
・(侵襲が低い):ずっと薬を飲むのと1回カテーテル治療を行うどちらが危険性が高いと思いますか?例えば抗不整脈薬を長期的に内服するのとカテーテルアブレーションを行うので比較すると、カテーテルアブレーションの方がリスクは少なく効果が高いとされています。カテーテルアブレーションの方が常にhigh riskということはないです。
・(薬の服用から解放される): 心房細動の薬を服用している方は、薬の服用から解放される可能性があります。
アブレーション治療のデメリット
一方、アブレーション治療には、以下のデメリットも考えられます。
・再発の可能性: 治療後も再発する可能性があります。発作性心房細動という心房細動が出たり止まったりという状態では10-20%、持続性心房細動という心房細動が持続した状態では30-40%とされています。特に持続性心房細動は患者さんの状態により異なるので主治医に確認してみるようにしましょう。再発した場合は2回目、3回目のカテーテルアブレーションを行うこともあります。
・合併症のリスク: 出血、感染、心タンポナーデ、薬剤アレルギー、気胸、不整脈、脳梗塞などの合併症が起こる可能性があります。日本全国では重篤な合併症は1%未満です。私自身の感覚でも生命を脅かすような合併症や手術を要したという数百人に1人と思います。
・治療時間や入院日数が長い: 治療時間は数時間かかることがあります。
・費用: ほとんどの場合は高額療養費制度の適用対象となります。本来は3割負担で100万円ほどかかるが、10万円程度に抑えられる。前後に心エコーやCTなどの検査を行うことを考えても、1回のカテーテルアブレーションで「数十万」はかからないことがほとんどです。
治療を受けるかどうかの判断
アブレーション治療を受けるかどうかは、患者さんの症状や年齢、心房細動の種類、合併症のリスクなどを総合的に考慮して決定する必要があります。
治療を受ける前に、担当医とよく話し合い、メリットとデメリットを理解した上で、ご自身の判断で決めることが大切です。
まとめ
心房細動のアブレーション治療は、心房細動の根治が期待できる治療法ですが、合併症のリスクや再発の可能性など、注意すべき点もあります。
治療を受けるかどうか迷われている方は、まずはお気軽に医師にご相談ください。
私自身は患者さんがメリットデメリットをしっかり理解し納得して治療法を選ぶのが大切だと思います。「治療受けた方がいいんだけど」という患者さんで「やっぱりカテーテルアブレーション治療は怖い」と受けていない患者さんもいらっしゃいます。正直に「受けた方がいいと思いますよ」とは伝えますけど、それ以上医師が強制する問題ではないと思います。一番良くないのは心房細動で医療機関を受診しないことです。今時心房細動だからと無理やりカテーテルアブレーションをするような医療機関はありません。しっかり受診し、必要な検査を受けた上で治療の選択肢を相談するようにしましょう。私東京都墨田区で開業していますので、もしご覧になっている方でお近くの方で心房細動だけど医療機関受診していないという方がいらっしゃいましたらぜひ受診してください。
じゃあどういう人はカテーテルアブレーションを受ければいいのでしょうか?動画も長くなりますので次回の動画で「心房細動のカテーテルアブレーションが適している人、そうでない人」というテーマで解説します。今後も心房細動を始めとした心臓病の情報を発信していきますので、気になる方はぜひチャンネル登録をお願いします。