古来、「火の鳥」の伝承や神話は世界各地にあるが、それらは高潔の象徴として、あるいは畏怖の対象として、人間の営みと密接に関わりながら残されてきた。
私はこの数年、過去の音楽作品に触れるたびに、作曲家の「生」への執念を感じるようになった。それは前向きな感情ばかりでなく、苦しみであったかもしれない。作品には、その人の(もしくはその時代の)生活、価値観、心情が生々しく反映される。同じように、今、私たちが受け止めている一つ一つの事象が、私たちが作る音楽にも活きると確信している。生きることの必死さや、言葉にならないさまざまな想いを書けたら良い。そのような考えを抱きながら作曲した。
低音二十五絃箏は、二十五絃箏の約1オクターブ下の音域を持つ楽器である。約8秒間響き続ける音の存在を感じながら、次の音に進む。この楽器の魅力を生かせるように、本作品では音や音楽が有機的に繋がり、ひとつの長い旋律のように在ることを心掛けた。
曲は五つの場面から構成されている。鳥の鳴き声や風の音をイメージした素材や、調絃の工夫によって表現できるアイディアを散りばめた。
今年2月に開催された二十五絃箏制作30周年記念フェスティバルでは、野坂操壽先生が情熱を持って二十五絃箏を作られた経緯を知った。また、演奏家たちが二十五絃箏を心から愛し、家族のような絆で結ばれていることに感激した。現在進行形で変化を続ける楽器と共に生きる幸せと、作曲家としてその歴史に関わってゆける喜びを感じながら、筆を進めた。
作曲にあたり、金子展寛さんにはたくさんのアドバイスを頂戴した。何度も試奏の機会をいただき、楽器法や箏の知識も教えていただいたおかげで、この作品を書くことができた。心から感謝申し上げる。 (笹原絵美)
金子展寛 箏リサイタルVol.2 より
22年9月24日 すみだトリフォニー小ホール