2023年の出生数が75万8600人あまりと、過去最少を更新しました。一方、おととし、国内で亡くなった人は、過去最多の156万人あまりとなりました。厚生労働省は、医療機関の人手不足などにより終末期のケアが受けられない「看取り難民」が2030年には47万人に上ると推計しています。人生の最期を住み慣れた地域で自分らしく迎えるために、どんな施策が求められているのでしょうか。
◆医療や看護を受けながら日常を大切に過ごす
79歳の阿部猛さん。去年、末期の前立腺がんと診断され骨にも転移していることが分かりました。
阿部猛さん(79)
「2か月で22~23キロ痩せてガリガリになって」
阿部さんは、福岡市内で一人で暮らしていましたが、1か月前から市内のホスピス住宅「ビーズの家」で暮らしています。ここは、末期がんなどで終末期を迎えた人たちが、医療的処置や看護を受けながら残された日々を過ごす民間の有料老人ホームです。この施設では食べたいものを食べたい時に食べ、出かけたい時に出かけ、会いたい人に会いたい時に会う、それぞれの当たり前の日常を大切にし続けることを目指しています。月額料金は、「居住費や管理費、食費」として約13万円、これに医療費や介護保険サービスにかかる費用がかかるしくみです。
◆24時間対応の訪問看護・介護を併設
ビーズの家を運営する(株)beads 代表 山崎大輔さん
「IT機器をしっかり活用して、介護ベッドには排尿排泄をにおいで検知するセンサーマットがついていたり、心拍・呼吸・離床が分かるセンサーをベッドに内蔵したりしています。例えば呼吸が急におかしくなったりおむつがいっぱいになったりということがあればスタッフに連絡がいくようになっています。自由度・プライバシーを担保する工夫をしています」
施設には、24時間対応の訪問看護・訪問介護ステーションが併設されていて、入居者が食事を作ったり洗濯をしたりする場所も用意されています。阿部さんは、ひとり暮らしをしていた頃と同じように自分で洗濯をするなどして好きなタバコやお酒を楽しみながら暮らしています。
阿部猛さん
「最高ですね。人間味のあるあたたかい気持ちが通じますね、みなさんね。スタッフが元気そうな姿を見るのが嬉しいし楽しい」
◆急増する民間施設 10年で3・2倍に
今、こうした慢性期や終末期の利用者に特化した民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の開設が全国で急増しています。
財務省が審議会に提出した資料によると、訪問介護を実施する事業所の数はこの10年で約2倍に増え、このうち民間企業が運営する事業所だけをみると3・2倍となっています。
◆背景に「看取り難民」
背景のひとつは、「医療機関」の人手不足などにより終末期のケアが受けられなくなる「看取り難民」の問題です。おととし、国内で亡くなった人は、統計を取り始めて以降過去最多の156万人あまりとなりました。この「多死社会」の中、「看取り難民」が6年後の2030年には47万人に上ると推計されているのです。
◆財務省は課題を指摘「適正化を図るべき」
一方で課題も指摘されています。財務省は、去年11月に開かれた審議会で、介護業界の大手企業に比べ、こうした慢性期・終末期に特化した事業者の利益率が極めて高いという資料を公表。利用者の1か月当たりの請求額を見ると、全体の1%強が60万円以上、最大で116万円にのぼったケースもありました。「看取りの受け皿となっている現状はあるものの、極端に訪問看護のサービス提供量が高い事業者については、医療保険上の訪問看護の提供実態等を踏まえた上で、適正化を図るべき」と指摘しています。
◆自治体も「看取り」に危機感
住み慣れた地域で自分らしく人生の最期を迎えてもらうことで「看取り難民」を減らしていこうという取り組みは、行政側でも進められています。佐賀県医療センター「好生館」では、県から委託を受けて、「看取り普及啓発事業」を行っています。
佐賀県医療センター「好生館」 小杉寿文緩和ケア科部長
「どのような介護施設であっても看取りが実際に安心してできるように、介護施設の職員を対象に教育をするというプログラムです。緩和ケア病棟に実際に来ていただいて、どのような看取りをしているのか体験していただいたり、簡単な講義をしたり、われわれが介護施設に出向いて行って、一緒に勉強会をしたりという教育を行っています。」
「看取り普及啓発事業」の開始から約7年。緩和ケア病棟で実務研修を受けた介護施設のうち7つの施設が研修後、新たに施設での「看取り」を始めました。
佐賀県医療センター「好生館」小杉寿文緩和ケア科部長
「看取りができる施設を1件でも増やしていく、各地域にそういう施設がまんべんなくあるように安心してできるようにということを目指しています」
◆佐賀県では高齢者の8割が病院で死亡
人口10万人あたりの病床数が全国平均を上回り、高齢者の約8割が病院で亡くなっている佐賀県。今後は「医療機関」での「看取り」が難しくなることが予想されています。佐賀県では、介護職員への研修だけではなく市民を対象としたセミナーなどを通して、地元での「看取り」に取り組む施設が増えていくことを期待しています。
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