今回は奈良時代の情熱の歌人、笠郎女をご紹介します。
彼女は大伴家持に熱烈な和歌によるラブレターを詠みました。それは、あまりにも激しい命がけの恋で、三十一文字にあふれんばかりの愛や、恋の苦しみを詠っています。
その歌の数々は『万葉集』の中でも際立った存在として、1300年たった今でも読み継がれています。
彼女の歌は『万葉集』に29首所収され、女流歌人としては大伴坂上郎女に次ぐ2番目の多さです。
しかも、その作すべてが大伴家持への恋の歌です。
残念ながら恋が叶うことはありませんでしたが、彼女が残した和歌は燦然と輝いています。
<恋のはじまり>
笠女郎の大伴宿禰家持に贈れる歌三首
託馬野(つくまの)に 生(お)ふる紫草(むらさき) 衣(きぬ)に染め
いまだ着ずして 色に出でにけり 巻三395
<待つ恋>
陸奥(みちのく)の 真野(まの)の草原(かやはら) 遠けれど
面影(おもかげ)にして 見ゆといふものを 巻三396
<恋の終わり>
奥山(おくやま)の 岩本菅(いはもとすげ)を 根深(ねふか)めて
結(むす)びしこころ 忘れかねつも 巻三 397
<恋のはじめ>
笠女郎が大伴宿禰家持に贈れる歌廿四首
我が形見 見つつ偲(しの)はせ あらたまの
年の緒(お)長く 我も思はむ 587
<待つ恋>
白鳥の 飛羽山(とばやま)松の 待ちつつぞ
我が恋ひわたる この月ごろを 588
君に恋ひ いたもすべ無み 奈良山の
小松が下に 立ち嘆くかも 巻四 593
<深い恋心>
八百日(やほか)行く 浜の沙(まなご)も 我(あ)が恋に
あに勝(まさ)らじか 沖つ島守(しまもり) 596
<人は恋に死ぬ>
恋にもそ 人は死にする 水無瀬川(みなせがわ)
下(した)ゆ我(あれ)痩(や)す 月に日に異(け)に 598
<届かぬ恋の苦しみ>
思ひにし 死にするものに あらませば
千度(ちたび)ぞ我 は死に反(かへ)らまし 603
<恋の終わり あきらめ>
相思(あひおも)はぬ 人を思ふは 大寺(おほてら)の
餓鬼(がき)の後(しりへ)に 額付(ぬかつ)くごとし 巻四 608
<恋の終わり 帰郷>
情(こころ)ゆも 我(あ)は思(も)はざりき またさらに
わが故郷に 還(かえ)り来(こ)むとは 巻四 609
<傷心の帰郷>
近くあらば 見ずともあらむを いや遠(とほ)く
君が座(いま)さば ありかつましじ 巻四 610
<大伴家持の返歌>
大伴宿禰家持の和ふる歌二首
今更に 妹に逢(あ)はめやと 思へかも
ここだく我(あ)が胸 いぶせくあるらむ 611
<大伴家持の返歌>
なかなかに 黙(もだ)もあらましを 何すとか
相見(あひみ)そめけむ 遂(と)げざらまくに 巻四 612
#万葉集#笠郎女#大伴家持