歌舞伎や能楽の「道成寺物」として知られる演目 本作品は娯楽映画ということもあって ミュージカルのようなつくりや ファンタジーっぽい演出が随所に盛り込まれていますが 本動画はダイジェスト版として 時間短縮して 踊りや挿入歌などのシーンのほとんどを割愛しています それでも上映時間は34分ほどかかっていますが あらかじめご了承下さい
《ストーリー紹介》
平安時代 奥州白川(福島県)から 修行僧の安珍は 連れの道覚とともに熊野(和歌山県)へ参詣に向かっていた 一方 紀州真砂の里の 庄司 清継の娘 清姫は 家畜の鶏をキツネが荒らして困ると山中へキツネ狩りに出かけていた しかし 手許が狂い 放った矢が誤って安珍の腕を突き刺さしてしまい その治療のために 道覚とともに 二人を館へ泊めることにした
折しも 館では関屋の長者 友綱が 二子山の水門を開いて真砂の里へ水を引くことを条件に 清姫との縁組みを 父清継へ迫っていた そうなれば五穀豊穣 村人たちの幸せにもなると 里の庄司である清継の弱点をついたのだ しかし清継は「何ぶんわがままな野育ちななもので 長者様の奥方など とてもあの娘には」とためらった それでも友綱は「それが望みです 深窓におとなしく育った人よりも山野を跳ね回る姿に心を惹かれる」と熱心に訴えた
一方で清姫は 手厚い介護を施したにも拘わらず 自分の美貌には目もくれず 避けるようにする安珍にいらだたしさを感じていた 「人の親切を踏みにじって何が沙門の身か 女はご坊のそばに行ってはいけないのか 何としてもあの偽りの面を剥いでみてやる」とばあやに心情を告げた
火祭りの夜 傷も癒えた安珍は雑踏の中へ その後を清姫が付けていた 山間の出湯に傷口をひたしている安珍 そのそばへ裸身の清姫が近付いて恋心を訴えた 拒むように背中を向け苦悶する安珍 やがて向かい合う二人 そこで清姫は狂気のごとく哄笑し 「とうとう正体を見せましたな 一皮むけばただの卑しい男 私は勝った」と言い放ち 湯気の中から姿を消した
ようやく傷も癒え 旅立つ安珍に話しかけるばあや そこに女中が駆け込んできて「早苗(女中)と道覚(安珍の連れ)の姿が見えません つづらも空っぽになっていて旦那様の手文庫のお金もなくなっています(しては駆け落ちか?)」と 安珍は 連れとはいえ道覚の不祥事を家主 清継に詫び「これから21日の間 道成寺に籠り 心を清め 再びこの家に戻り 私に叶いますかぎりの罪の償いをいたします」と誓った
翌日 安珍は去り際に「この品は 師より頂いた大切な品 必ず帰るという証に 21日の間 これをお預けします」と清継に一本の笛を差し出した 一方 安珍の心をもてあそんでしまった清姫は 後悔にさいなまれていた 旅立つ安珍を追いかける清姫 林の中からその後姿を見届け 安珍の参籠がどうか無事に済みますようにと祈った その清姫に恋心を抱いていた友綱は その想いを直々に伝えようとしたが「私が参らなければ水を分けて下さらない そんな汚い心を私は憎みます」ときっぱりと拒絶されてしまう
左大臣 藤原忠平の息女 桜姫が安珍の修行している寺に参拝に来た「亡き母の戒名にご回向を賜りたい いかなるご心願か而今のおつとめ ただただ奇特と感じましたゆえ」と そこで名も知らぬ若き修行僧に淡い恋心を抱いてしまったという その話を聞いた清姫は それが安珍であるとすぐに直感した
しかし安珍の煩悩の炎は消えなかった「仰ぐ御仏のお顔が女人の顔と見えます」と老僧に打ち明けると「それならば奥の院にある浄心の滝に打たれて女人の幻が消えるまで苦行するがよかろう」と勧められ 瀑布(ばくふ)に身を打たれ一心不乱に経文を唱えた
そんな安珍の消息を耳にした清姫はじっとしていられなかった 急いで安珍のもとへ駆けつけ「私は何という思い上がった愚かな女だったのでしょう お別れして私は初めてあなたさまをお慕いしているのだと知りました でもこの愚かな過ちは消えません この罪のつぐないは死んでお詫びをします」と泣きじゃくり 滝に身を沈めようと走り出したが すぐに安珍に止められた
清姫が館へ戻ると「大変なことが!」とばあやに呼び止められた 友綱さまから「沼の水と引き換えに清姫さまを妻にというのは心得違いで 彼女の心が解けるのを待ちます 今日は日もいいし 水門を開けます」と父 清継に申し出たという それならと「 ふつつかな姫ではございますが どうかもらってやって下さい」と答えたらしい しかし 清姫から「私には 既に心を捧げた いとしいお方がいます」と告げられ 父 清継は戸惑う
その頃 安珍は真砂の里の近くまで来ていた そして近くの河原で叫び声がして 見ると道覚と女中が 駆け落ちの末路か「坊主のくせに盗みを働くとは大それた奴」と清継の下僕たちから棒で攻撃されていた 安珍も彼らに叩かれ「これから先は一歩も里へ入ってはならん 清姫さまは喜んで友綱さまとのご縁組をお受けなさった 今ここでお前さまに出られたら何もかもぶち壊しじゃ」と止められて やむなく道成寺へ引き返すことにした
安珍は「これでいい 自分は もう二度と真砂の里に足を踏み入れてはならない どうか清姫さま 友綱さまと幸せになってください」と自分に言い聞かせた うろたえる清姫 今すぐにでもこの縁組のことを安珍に伝えたいと 館の女中や下僕たちに 安珍を見掛けなかったか と声をかけたが 誰も皆 知らないと言われた
どうしたらよいのか 部屋に戻り一人泣きじゃくる清姫 そこへばあやが飛び込んできた! 「清姫さま お父さまが自害して!」と 父から最期の言葉がしたためられた手紙を差し出されて そこには 「そなたの誠の心を見抜かざりし父を許し候 友綱さまへの堅き約束を違え あまつさえ我が子の幸せを阻みし罪は 一死を持って報いるほか道なきものと存じ候 そなたは心おきなくただひと筋にその恋を遂げられよ 父はあの世からそなたの幸せをいつまでも いつまでも祈りおり候 父より 清姫どの」とあった 清継は 友綱に申し訳ないという思いから 自らの命を絶ったのだった
下僕の佐助は悔やんだ「安珍さまを我々皆で道成寺へ追いやってしまった 子細も知らずこの佐助めは・・・」と ばあやも「お父さまは清姫さまのお幸せを願うて尊いお命をお断ちになりました 安珍さまが道成寺の山門をお入りになってしまえば もうお引き戻しすることはできません さあ一刻も早よう!」と清姫を急き立てた
急いで館を出て安珍の後を追う清姫 安珍も時折り振り返ると遠くに清姫の姿が目に入り 一瞬ためらったが 逃げるようにして走り出した 日高川の舟着場にたどりついた安珍は一人舟を漕いで向こう岸へ渡る 清姫がやってきたときには舟はなく もう後を追いかけることもできず ならばと覚悟を決め 崖の上から飛び込んで日高川を渡ろうとしたが 急な 流れには逆らえず 溺れてしまい川底へ
道成寺に着いた安珍は本堂で必死にお祈りをした「どうかこのまま清姫さまがお幸せになりますように」と 一方 日高川に身を沈めた清姫だったが その身を大蛇に化身して 川を渡り 参道の石段を駆け上り 道成寺へと向かった 安珍は雷鳴に打たれて本堂の中で気を失う やがて目を覚ました安珍は清姫のことが気になって「行かせてください!」と僧たちに訴えたが 皆 安珍の身を気遣い 梵鐘の中に隠して一斉に経を唱えた
雷鳴が鳴り響く中 化身した清姫が 道成寺にやってきて 梵鐘の前に止まり ゆっくりと回り出す それはまるで恋しい安珍を抱きしめるかのように 大蛇に化身して梵鐘に巻き付いた清姫は ようやくこれで安珍さまと一つになれたという思い やがて梵鐘は雷鳴とともに真っ赤な炎につつまれた それは愛し合う安珍と清姫の燃え盛る愛の炎のようにも見えた
安珍はうなされていた 梵鐘の中に身をかくしたおのが身をその炎で焼きつくす という夢を見ていたのだ 目を覚ました安珍が「清姫のところへ参ります!」と立ち上がると 僧たちから「おぬしは御仏の導きを忘れたのか!」と引き止められる それでも安珍は「たとえ狂ったと思われてもいい 人に笑われようとかまわん どんな責め苦に遭おうとも悔いはない!」と清姫への思いを訴えた そしてしばしもみ合いの末に「行かせてやれ!それも御仏の道じゃ 早よう行け!」と老僧 義円が 皆を一喝した
道成寺の梵鐘をじーっと見つめ 感慨深そうな安珍は一人 日高川に向かった そしてどうか御無事でという願いも空しく 目に飛び込んできたのは 波打ち際に冷たく横たわった清姫の姿だった 「清姫さま! 清姫さま!」と何度も体を揺り起こし 声を掛けたが もう何も答えてくれなかった 冷たくなった清姫の体を抱き起こし安珍は悔やんだ
「私は何という過ちを犯したのだろうか 恋にも徹しきれず 仏の道も究めることができず あなたをこんな姿にしてしまった もうこれからは一生そばを離れず あなたのご冥福を祈ります どうか許してください」と言葉をかけ 清姫の体を両手でしっかりと抱き上げ 道成寺へ向かった
《出演》
安珍 市川雷蔵
清姫 若尾文子
清継 見明凡太郎
友綱 片山明彦
道覚 小堀阿吉雄
佐助 花布辰男
渚 毛利菊枝
桜姫 浦路洋子
《用語意味》
【参詣】さんけい
神仏におまいりすること
【沙門】しゃもん
僧侶 出家の総称
【庄司】しょうじ
荘園領主から任命され 荘園を管理し 荘園内の一切の雑務をつかさどった役人
【関屋】せきや
関守(関所を守る役人)の住む家 関守の番小屋
【長者】ちょうじゃ
富豪 金持
【山間】やまあい
山と山の間 山の中
【出湯】いでゆ
温泉
【哄笑】こうしょう
高笑い 大笑い
【瀑布】ばくふ
滝
【下僕】げぼく
男の召使 下男
最後に あくまでも個人的な感想ですが 若尾文子さんは本当に凄い女優さんだと感じました 女性特有の嫉妬心や感性やそしてエロスまで表現できる女優さんなんてめったにいませんから この清姫役は若尾文子さんでなければできなかったでしょう また市川雷蔵さんも安珍役にぴったりはまっていて 1人と1人を足して2ではなく 3にも4にもなるんだなと この作品を見て 改めて感じました つくづく若尾文子さんて凄い女優さんだなと・・・
・若尾文子(清姫)1933年11月8日生まれ(91歳)
・市川雷蔵(安珍)1931年8月29日生まれ
1969年7月17日死去(37歳)