雨上がりの朝。
午前4時から朝焼けが始まる。
雨上がり、夜は肌寒く、風速1m
この条件で撮影に出なければ、カメラを持つ資格などない。
そんな朝だった。
これまでに何度も何度も上った若草山。
カバンに下着を3枚とトイレットペーパー1ロールを入れて、覚悟して上った。歩き慣れた道なのに遠く感じた。
撮影ポイントに着いたのは4時30分。
朝焼けの一番鮮やかな瞬間には間に合わなかった。
ポンコツのこの体がただただ情けない。
心底情けない。
これからも少しずつ衰えていくこの体で撮影が出来るのだろうか。
何か目標がなければ、心も体も折れてしまう。
撮影を終えて最初に撮ったカットを再生してみると、息切れして苦しそうな呼吸が録音されていた。
このカットを撮りながら死ねたならどれだけ楽だったか。
でも、撮影を続けながら若草山を下山する。
誰もいない、鹿と私だけ。御蓋山の麓で奈良の朝を迎える。
奈良の朝は素晴らしい。
ここでの鹿は、奈良公園で鹿せんべい欲しさに人間と交わる鹿ではなく、野生の神鹿。その仕草は見ていて飽きない。
祈りの空間であるこの場所が本来の姿を見せるのは朝と夜だけ。
せめてそれだけは奪わないで欲しい。