家も学校も、交友関係でさえ
私にとっては動きを制限される重たい鎖のようで
ずっと理想を押し付けられて、見られていて、息苦しくて、わからないけど多分牢屋に入れられるってこんな気持ちなんだろうなと
幼い頃からずっと思っていた。
周りの人が良くなかったのか
私の周りに対する立ち回りが良くなかったのか
私、自身の許容量が少なかったのか
ずっと我慢して溜められた想いが、決壊して溢れ出すのにはそれほど時間がかからなかった。
最寄駅から二つ先の駅の、知らない場所を、何も知らないままに歩く
そんな無意味な事をしてしまうほどに、私の心は弱っていた。
誰も私を知らない場所で、誰にもとやかく言われる事無く、誰にも見られずに過ごす。
少し遠出する散歩ぐらいの感覚で、ふらりと学校をサボってしまったのだ。
行く宛も無くふらふらと歩く
気づくと私は、シャッター街になっているような商店街にポツンと置かれたベンチに腰を掛けていた。
「はぁ、、、」
すると、隣に自分と同じように全てに疲れ果てたようなため息を吐きながら男が腰を掛けた。
年は同じか少し上ぐらいの見た目、高等学校の教育を受けている者なら制服を着用している時間帯だから、彼は高校生ではないのか?
疲れたり、溜め込んだり、限界が来て逃げ出した人間の目っていうのはどれも一律で同じ色をしていて
私には彼が同じような境遇である事がなんとなくわかった。
まあ、厳密にはわかったような気になっていただけなのかもしれないけど。
同じであって欲しい。
そう言った願望なのかもしれないけど。
「何かあったんですか?」
自分から積極的にコミュニケーションを取る方では無いし、その言葉を発した私の方が驚いていたかもしれない。
だが、その突飛な挨拶を聞いて少し驚いていた彼も、私の目を見てか少し落ち着いた表情に戻り、淡々と自分の事を話してくれた。
息苦しさを感じる社会から抜け出した二人が、籠の外側にある古びたベンチで意気投合するのに時間はあまりかからなかった。
「ねえ、来週のこの時間も、またここで合わない?」
これまた大胆な言葉が自分から飛び出す。
いつもと違う環境でか
初めて出会う気の合う人だからか
自分が自分でないような気分だ。
彼は少し戸惑いながらも、私の突飛なお願いを引き受けてくれた。
それだけで久しぶりに浮き上がってきた笑顔がやめられなかった。
今、自分を取り巻く環境がガラッと変わったわけではないし、あの場所には戻らないと行けない。
自分が牢屋と揶揄した場所から脱獄出来たわけではないのだが、少しだけ小さな穴を開けたような気がした。
少女は、これから先の未来を想い胸が高鳴るのを感じた。
また、二人が出逢うまでにあとどれぐらいかかるのだろう?
また、二人が向き合い笑うまでにあとどれぐらいかかるのだろう?
二人がもっと逃げ出そうとするまであとどれぐらいかかるのだろう?
二人が恋に落ちるまであとどれぐらいかかるのだろう?
そんな事は誰にもわからないけど
少し先に小さくても光が差し込んでいるなら
もう少しだけ、心に想いを溜め込めるし
もう少しだけ、我慢できるのかも
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