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「本当に危ない」道路埋め尽くす観光客に住民ため息…畑侵入され怒る農家も―北海道美瑛町の“オーバーツーリズム”

北海道ニュースUHB 4,424 22 hours ago
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コロナ禍で冷え込んだ北海道の観光がV字回復を遂げている。円安を追い風に訪日外国人(インバウンド)がけん引。ただ、その回復スピードに体制が追いつかず、受け入れる地域では住民との摩擦が生じている。  北海道でトップクラスの観光地、美瑛町は、受け入れの許容量を超えた。人気スポット周辺では、外国人観光客の一行が車道を歩行者天国のように闊歩(かっぽ)し、車の往来をはばむ。深刻化するオーバーツーリズム(観光公害)の実態を追った。 生活道路埋め尽くす観光客 ドラマで人気過熱  去年12月22日、美瑛町美馬牛の町道。スクールバスが通る、生活道路は「歩行者天国」のようだった。なだらかな丘の畑の中腹にりんと立つ風光明媚(めいび)な1本の木、「クリスマスツリーの木」を写真に収めようと、人や三脚が道路を埋め尽くしていた。  木の上部がまるで星が乗ったような形に見えることから、いつしかそう呼ばれるようになった。Netflixで2022年に配信されたドラマ「First Love 初恋」のロケ地となり、アジアを中心に人気が過熱している。  「ドラマを見て行きたいと感じた。とても美しいので、毎年観光に来て色んな場所を見てみたい」(観光できた韓国人の男性) 駐禁も効果なし…「危ない」と住民ため息  道路を占拠する観光客は、通行しようとする車がクラクションを鳴らしてもちょっとやそっとでは動かない。  「いつ事故が起きてもおかしくない。本当に危ない」。美瑛町民はため息をつく。  木の周りは農地で、立ち入りは厳禁。駐車場はない。美瑛町観光協会は安全を確保するため、去年12月から警備員2人を配置。韓国語を織り交ぜながら休む暇なく大きな声を張り上げる警備員の男性の表情は疲れ切っていた。  1月29日から始まった中華圏の旧正月「春節」には中国人が殺到する。地元の要請を受け、30日から3週間、付近の町道約300メートルを、駐車禁止区間に指定した。  警察官が動員され、一時解消されたが、違法の駐車列は一向に解消されない。 我慢も限界に 「シラカバ並木」苦渋の伐採  十勝岳の麓に広がる美瑛町は雄大な自然と人の営みが織りなす北海道有数の観光地。夏が最盛期で、色合いの異なる畑が連なる「パッチワークの丘」などの農村風景で人々を魅了する。  景観の多くは作られたものではなく、発見されて人が集まるようになった。いずれも農家や地権者の好意でなり立っている。  広さは東京23区の面積に匹敵する約680平方キロメートルだが、人口は約9300人。そこに250倍を超える238万人の観光客が押し寄せる。コロナ禍だった2021年の106万人の倍以上だ。  今年1月、農家らの好意は限界に達した。「クリスマスツリーの木」から12キロ離れた、映えスポットとして人気の「セブンスターの木」から道路を挟んだ町道沿い。  130メートルにわたる38本のシラカバ並木が1月14日午前、1本残らず伐採された。根元から切られた長さ15メートルほどのシラカバが、横たわっていた。  「セブンスターの木」は1976年にたばこのパッケージに採用され、隣接するシラカバ並木も人気の観光スポットとなっていた。  なぜ、切り倒されてしまったのか――。  「観光客が私有地の農地に侵入したり、車道をふさいで写真を撮影したりし、マナー違反や交通渋滞が大きな問題になっていた。  高さ15メートルに成長したシラカバが日陰をつくり、農作物の生育に影響を及ぼしていたこともあった」(美瑛町農林課 平間克哉さん)  周辺農家でつくる住民団体は去年12月上旬、シラカバ並木の伐採を町に要望。町は基幹産業の農業に影響があることから「伐採はやむを得ない」と判断した。  「私有地であり、農家のなりわいに悪影響を及ぼしているなら残してとは言えない。やむをえないけど、きれいだったので残念」。美瑛町の男性は複雑な表情を浮かべた。 畑侵入し記念撮影 「非常に迷惑」と怒る農家  迷惑行為は10年以上前からあった。そして、めずらしくない。去年12月22日、「セブンスターの木」付近を取材していると、畑に何者かが侵入した足跡があった。4カ国語で立ち入り禁止と書かれた看板の真横を、無視するかのようにすり抜けていた。  観光スポットの近くで小麦やジャガイモを栽培している農家の大西智貴さん(40)は怒りをあらわにする。  「足跡をたよりに、ここは誰か入っているからいいのだと、ほかの観光客もどんどん入ってしまう。農地に入られるのは非常に迷惑」  過去には畑でピクニックをしたり、牧草ロールの上で遊んで写真を撮ったり、車で侵入したりする観光客もいたという。 好機と考える動きも 観光客と農家の共存模索  靴底から病害虫や病原菌が持ち込まれると、作物を作れなくなる恐れがある。一方で、観光によって美瑛の名前が広く知れ渡るチャンスだとも捉えている。  「はっきり言って迷惑の方が多いが、文句ばかり言っていてもポジティブな未来にはつながらない」  農家と観光客がウィンウィンの関係を築こうと、大西さんは2019年、若手農家ら10人で「ブラウマンの空庭。」というプロジェクトを立ち上げた。 畑に設置している「ブラウマンの空庭。」の看板  農家の歴史や視点を紹介するため、畑に看板を設置した。顔写真を掲載し、QRコードをスマートフォンなどで読み込むと、作物を購入するホームページにアクセスできるようにした。大西さんは意気込む。  「美瑛の農作物のブランド価値を高め、ファンを増やし、農家と観光客が共存していく美瑛モデルを構築していきたい」 「青い池」泳ぐ外国人も 経費投入しカメラで監視  騒動は冬に限ったことではない。去年7月、アップル社の壁紙にも採用された世界的景勝地「白金青い池」で撮影された動画が物議を醸す。  外国人男性がコバルトブルーの池で泳ぎ、笑顔でピースサインを決める。頭上にはドローンが飛んでいた。  「ジャポンという音がなったので振り返ると人が泳いでいる状態。木を登ろうとしたり押したりしている」(撮影した観光客)  水深が深く、エキノコックスへの感染も考えられることから、池に入ることを禁止している。  「池で泳いでいる人を見たという報告や、池が凍って雪が降り積もり、足跡が無数に残っているという事例の報告は受けている。非常に危険な行為」(美瑛町商工観光交流課 成瀬弘記課長補佐)  町は対策に乗り出した。AI搭載カメラで池を監視することにした。人が侵入すると、写真で記録し、スピーカーから日本語、英語、中国語、韓国語の4カ国語で警告する。白金青い池を含め、4台設置した。  経費は20万円ほど。警告音が流れることで、奥まで侵入することはほぼなくなり、本来業務の観光案内に集中できるようになった。町は今後、8台のカメラを増設する計画だ。 行政サービスの質低下も懸念 観光税導入を検討  美瑛町はオーバーツーリズム対策費をまかなうため、観光税の検討を始めた。早ければ2026年から導入する。白金青い池の駐車料金に上乗せする「駐車場利用税」と「宿泊税」で、年3~4億円の税収を見込んでいる。北海道では初めてだ。  「町民サービスのために使われるべき経費から対策やインフラの整備の費用が支出されている。このままでは町民への行政サービスの水準が低下する懸念も。観光客にも協力してもらうことが必要」(美瑛町商工観光交流課・成瀬弘記課長補佐) ⑰美瑛の宿泊客わずか 「泊まってお金落として」  美瑛町の周辺には「北海道第2の都市」の旭川市や「第2のニセコ」と呼ばれ、注目されている富良野市がある。町や観光協会の調べによると、美瑛町への宿泊客はわずか6.6%の16万人。  「たくさんの観光客が来ることは大歓迎。泊まってお金を落としてほしい。宿泊につながるよう青い池や道の駅のライトアップを実施してきたが、今後も滞在時間を伸ばしていくための取り組みを行っていきたい」(成瀬課長補佐)  住民生活の維持と集客の両立という難しい問題がこれからも続く。 編集後記  「これはひどい」。思わずわたしも声が上ずった。去年12月下旬、オーバーツーリズムの取材で訪れた北海道美瑛町。「クリスマスツリーの木」の前の道路は人や三脚が道路を占拠し、まるで歩行者天国のような状態だった。  取材クルーとともに、車で通り抜けようと試みた。観光客らは除けようともしない。「邪魔くさいな」と言わんばかりのまなざしで、車内のわたしたちの顔をのぞく。住民にとっては腹立たしいだろうと思った。  コロナ禍で冷え込んだ観光がV字回復をしている。宿泊する観光客が少ない美瑛町にとって、地元に多大な恩恵があると言いがたい。むしろ、外から害虫被害をもたらすリスクにさらされ、農家が怒りを抱くのも当然だ。  ただ、それでも農家の大西さんは、美瑛の名前が知れ渡ることはチャンスと捉えていた。彼が描くのは「美瑛モデル」。観光客との共存を願う取り組みをわたしも報道で後押ししていきたい。  ※この記事は北海道ニュースUHBとYahoo!ニュースとの共同連携企画です。オーバーツーリズムの危機に直面する北海道観光の現状を追いました。

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