観光立県・長崎の未来を支えるのは「教育」か。長崎の将来を担う観光人材育成に向け、今「観光教育」の取り組みが注目を集めています。長崎市では教育委員会と観光政策課が連携し、学校での観光教育をスタート。地域の魅力を学び、郷土への誇りと愛着を育むとともに、未来の観光産業を支える人材を育てる新たな挑戦が始まっています。【住吉アナウンサー(以下:住)】長崎の暮らし経済ウイークリーオピニオン今週も平家達史NBC論説委員(以下:平)とお伝えします。今回のテーマは「長崎への誇りや愛着を育む『観光教育』」です。『観光教育』とは?【住】「観光教育」という言葉は、まだ皆さんあまり耳なじみが無いのではないでしょうか。【平】観光教育とは、主に初等中等教育段階の子どもたちに対して行われているものです。地域の観光資源などについて理解し、その魅力を発信し課題解決に寄与する力を育む教育です。その目的は「観光人材の育成」です。先月長崎で行われた「全国商工会議所観光振興大会」で採択された「長崎アピール」でも、観光人材育成の必要性が訴えられました。日本商工会議所観光・インバウンド専門委員会 菅原昭彦共同委員長:
「観光を支える人材を育成することで『観光業』を『観光産業』へ昇華させ、地域経済の活性化につなげなければならない。『ふるさとの再発見と地域ブランディングの推進』『地域への愛着や誇りの醸成による持続可能な観光の実現』」【平】「地域への愛着や誇り」という言葉が最後に出てきましたが、これは今まさに注目度が増している「シビックプライド」のことです。【住】そのシビックプライドを育むことが、観光人材育成につながると?
【平】そうなんです。長崎市の経済再生アクションプランでは、シビックプライドの醸成を取り組みとして掲げています。長崎市の学校教育課に現在の取り組みを聞きました。長崎市が先行 教育委員会×観光政策課長崎市教育委員会・学校教育課 池田直人主任指導主事:
「長崎を誇りに思える、長崎を好きだ、長崎のために何かやってみたいという『シビックプライド』を醸成するという意味でも大切ですし、その中で長崎市の1つの特徴として観光からのアプローチもふるさとのことを学べる1つの要素になる」「令和6年度は3校観光教育を実施しました。予算は学校教育課の予算ではない。観光政策課から『観光教育を進めていきたいが学校教育の中でどうだろうか』という話がきた」【住】長崎市では教育委員会と観光政策課の両輪で観光教育がスタートしているということなんですね。【平】はい。全国に目を向けると、観光系の学部や学科を設置している大学、そして「観光学を学べる大学・短期大学」は全国に248校あります。県内では、鎮西学院大学、長崎国際大学、長崎短期大学が含まれます。因みに、毎年開催されている世界最大級の旅の祭典である「ツーリズムEXPOジャパン」では、内外の観光地のブースが並ぶのですが、アカデミーのコーナーには、日本の観光教育の草分けである立教大学や国立大学で唯一の観光学部を持つ和歌山大学など15の大学や専門学校がブースを出していました。そうした中、長崎大学では、観光教育推進の全国モデルの開発プロジェクトの立ち上げを目的とした催。”開発プロジェクトの立ち上げを目的としたスタートアップミーティングが開催されました。長崎大学が全国モデル目指す 観光教育推進プロジェクト始動先月、長崎大学教育学部・井手准教授らでつくる「長崎シビック・プライドを育む会」が開いたスタートアップミーティング。観光教育を推進している長崎市の担当者なども参加し、子どもたちへの基礎教育として、観光教育を充実させることの重要性が話されました。名桜大学 寺本潔特任教授:
「現在の長崎市あるいは長崎県の状況を考えてみますと、『シビックプライド』育成がいかに重要な時代に差し掛かってるか。それに気付いていただけないか」この日招かれた名桜大学・寺本潔特任教授は「観光教育」という分野を立ち上げた創始者です。名桜大学 寺本潔特任教授:
「日本が観光先進国に大きく成長するためには今からもう始めないと遅いぐらいなんです。人材を育てていかないと成長しません」名桜大学 寺本潔特任教授:
「(全国的に)初めて教育委員会と観光政策課という2つの部局、いわゆる縦割り行政の壁を横断的に取り払い連携して進めている点で、非常に画期的な期待を持っています。全国初の『長崎モデル』の観光人材育成が実現するのではと思っています」【住】縦割り行政の壁を破る「長崎モデル」の観光人材育成には期待できますね。【平】観光教育を全国各地で指導しておられる寺本先生が考える「長崎のこどもたちにシビックプライドを育む教育」は
▶「観光市民」としての自覚
▶多様な価値を受け入れてきた「国際性」と「長崎弁」の継承
▶観光客目線の「企画力」「提案力」
▶「長崎推し」を増やすことにつながる場面の創出の4つです。教育学部で進む『観光教育』の実践先ほどのスタートアップミーティングを開いた長崎大学教育学部・井手准教授は、学生が教員になった際に自らが「観光教育」を行う際の『授業づくり』などの取り組みを行っています。長崎大学教育学部 井手弘人准教授:
「長崎で観光が主要な基幹産業ですので観光そのものを通して子供たちがいろんな学力も含めて育まれるような1つの形を長崎でしっかりと作り上げたいと」井手准教授は、教育学部の1年生をグループ分けして観光教育の授業をどのように行うかを考えてもらい、発表会を行いました。長崎大学教育学部 1年生の発表:
「地域の良い点と改善点をまとめて観光教育との関連性を出してます」「地域の施設だったりとか自分たちが住んでる地域に着目した授業が増えてくると思います」こちらは雲仙普賢岳の噴火活動による被災地でフィールドワークを行ったグループです。長崎大学教育学部 1年生の発表:
「記憶の伝承といったように受け継いでいけるような学習に結びつけると思ったので」
「まず火山防災について詳しい人に話をしてしていただきます」発表会後、火山について考えたグループに、井手准教授からアドバイスがありました。メンバーはいずれも、島原半島や熊本・鹿児島という火山が身近にある地域で育った学生です。井手准教授と学生:
「考えるって4時間目に書いてあるでしょこの考えるっていうのがどういうイメージをしてるのか」
「(被害を伝える)施設とかについて熱い気持ちがあるのに感銘受けたり」
「大場小学校のあの」
「鉄棒…」
「鉄棒鉄棒印象に残ってたよねグニャーンって曲がってた」長崎大学教育学部 1年生:
「(被災地の人に)フィールドワークで関わったんですけど観光スポットにしたいと聞いてそういったところでも観光ができるのかと思って」
「授業でも全然火山のことを学んでこなくてどうやって地域を盛り上げるか観光につなげるかというのを考えるきっかけになったので」長崎大学教育学部 井手弘人准教授:
「長崎というところに限定していくと非常に自然環境が多様ですよね。島も島しょ部もありますし、都市もただ人口が多いだけじゃなくて歴史性を持った都市だったり。それを観光という1つの産業の中に活かしていくことももちろん大事だと思いますし、そういうマインドを持つ子供たちがここから育っていくことはむしろ僕は必然だと思っています」高校でも広がる観光教育 佐世保商業の取り組み【住】現在行われている観光教育の一例として2022度から高校の商業科に「観光ビジネス」という科目が選択科目として導入されているそうですね。【平】はい。県内でも6つの高校で授業が行われています。先日は佐世保商業高校で、来年度の「観光ビジネス」につながる事前授業という位置づけで授業が行われました。この日は佐世保観光コンベンション協会の方が外部講師として招かれ「佐世保の観光資源」について教えました。佐世保商業では「観光ビジネス」を今年度から取り入れています。担当した德永先生によると、「手探りで授業を考えてきた中で佐世保が抱えている課題を観光という視点で解決できないかということを考えてもらった」、「そして佐世保へのシビックプライドの育成ということも大切にした」と話しています。観光産業の未来を担う人材育成へ【住】初等中等教育から高校・大学へと「観光教育」が広がり、長崎の観光を背負って立つ人材が育つといいですね。【平】小・中・高の「総合的な学習の時間」「探求の時間」でもふるさと教育のような形でシビックプライドを醸成するような取り組みにはかなり力を入れているようです。長崎県の経済にとって、「観光」は大きな柱の一つです。”「観光」を学び、将来は観光で生計を立てられる人材をできないか。”育てることがができれば、若者の流出を抑制したり、若者を呼び込むことに繋がるのではないでしょうか。いずれにしても、「観光」と「教育」を体系的に結び付けた今回の長崎大学のような取り組みは重要です。さらに言えば、「教育」に「外国語」も加えて、今後増加が期待されるインバウントへの対応力の強化につながればもっと良いと思います。
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