町に伝わる民話を地元の言葉で伝承する「語り部」。福島県新地町の小野トメヨさんは2024年に100歳を迎えた現役の語り部だ。民話や震災の教訓を伝え続けている。
<心に響く語り口>
故郷の言葉で語りかけるように民話を話す小野トメヨさんは、大正13年8月生まれで2024年に100歳を迎えた現役の語り部だ。福島県新地町に残る50以上の民話を、情感豊かに伝える語り口が人気を集めている。
小野さんの民話を聞いた人たちからは「ずっと使い続けてきた言葉だし、語り部として感じるものがすごくあって良いお話だった」「心にしみた。100歳とは思えないような声の張りで、元気でこれまで繋いでこられたので、今回聞けてよかった」との声が聞かれた。
<なんでもやってみる!がモットー>
長男の政夫さん夫婦と一緒に暮らすトメヨさんの元気の秘訣は、多彩な趣味。『なんでもやってみること』『継続すること』がモットーで、語り部活動に出会ったのも好奇心だった。
2001年に開催された「うつくしま未来博」に民話の語り部として応募し、人前で話す楽しさに魅了されたという。
「やはり何か自分で打ち込めるものがあるのは、最高だと思う。自分の生きがいのような目的持った、それが励み。生きる励みだね」とトメヨさんはいう。
<気力も失いかけた東日本大震災>
「生きがい」の一つとなった語り部活動だが、一度諦めかけたこともあった。
2011年3月11日に発生した東日本大震災。新地町は9メートル以上の津波に襲われ、トメヨさんも自宅や財産を根こそぎ失った。「太平洋の大きい海が、全体に移動してくるのだから。いかに強いかっていうことをよく心にしみさせた」とトメヨさんは振り返る。
数カ月間、避難先を転々とするなかで、気力を失いかけていたとき一通の手紙が届いた。
「粘り強く必ず立ち直って、みんなでまた民話を語り合う日を待ちます」
宮城県の語り部仲間から届いた、力強いメッセージだった。トメヨさんは「地震や津波でも涙がこぼれなかったけど、あの優しい言葉で涙がボロボロボロ出て。励ましてくれた」と語る。
民話だけではなく、震災の経験も語り継ぐべき大切な物語。トメヨさんは「あまりみんな津波の理解が無いから、その津波っていうのは恐ろしいことを、よくみんなの心にしみ込ませないとダメだと思った」と話す。福島県の内外から依頼を受けて、その教訓を伝える活動にも力を入れている。
町の歴史や言い伝え、そして後世への教訓を繋いできた20年あまりの語り部人生。「語れるうちは語ろうと思っている」というトメヨさんは、これからも物語を紡ぎ続ける。