【娘の努力否定された】聴覚障害の11歳女児の逸失利益は“全労働者の85%” 重機死亡事故めぐる損害賠償訴訟で大阪地裁が判決
5年前、聴覚障害のある女の子が事故で死亡し、両親らが運転手らに対し損害賠償を求めている裁判で、大阪地裁は将来得られるはずだった収入(逸失利益)を全労働者の85%と認定し、運転手らにあわせて約3800万円の賠償を命じました。
聴覚に障害がある井出安優香さん(当時11歳)は5年前、大阪市生野区で下校中に重機にはねられて死亡し、その後、両親ら遺族は運転手らに損害賠償を求めて訴えを起こしました。
これまでの裁判では、将来得られるはずだった収入(逸失利益)が、障害を理由に減額されるかが争点になっていて、両親側が全労働者の平均賃金から算出するよう求める一方、被告側は全労働者の約6割にあたる、聴覚障害者の平均賃金をベースにすべきだと主張していました。
大阪地裁は27日の判決で、「被害者には、将来様々な就労可能性があったといえる」としつつも、「聴力障害は労働力に影響がない程度のものであったということはできない」として、全労働者賃金の85%を基礎収入とするのが相当であると判断。
被告側に対し、約3800万円の支払いを命じ、判決の争点となっていた「逸失利益」については、健常者と同じ水準までは認めませんでした。
判決後、両親は・・・。
(安優香さんの父親・井出努さん・50歳)
「何でそこまで娘のことを、努力を否定されなきゃいけないのか。悔しくてたまらないです」。
(安優香さんの母親・井出さつ美さん・51歳)
「どんなに努力しても、ただ聴覚に障害をもっているだけで、その子の人生を否定されないといけないんですか」。
【記者リポート】
父親の努さんは「被害者には将来さまざまな可能性があった」という部分に関しては評価しつつも、「全労働者の平均賃金の85%」という逸失利益に関しては、「納得することはできない」とコメントしました。
会見でも、努さんは「結局、裁判所は差別を認めた」とし、母親のさつ美さんも「娘は努力を重ねて11年間生きてきた、それって無駄だったのか」と、両親ともに悔しさと怒りをにじませていました。
安優香さんの担任2人もこれまでの裁判の中で、「聴力と学力のレベルは関係ない」と法廷で証言していましたが、健常者と同じ水準までは認められませんでした。
今回の判決を受けて、努さんらは「まだまだ障害者の方たちが生きにくい社会というのは変わらない」とし、弁護士らも「承認しかねる」としています。
(Qこれまでの「逸失利益」の裁判と比較すると?)
これまで聴覚障害がある方の逸失利益を争った判例はほとんどありません。過去の判例では、視覚障害がある当時・女子高校生が交通事故に遭い、脳機能障害などが残ったことに対して損害賠償を求めた裁判では、広島高裁は全労働者の平均賃金の8割に相当すると判断をしています。
広島高裁は『障害のない人と比べ、差があると言わざるを得ない』としながらも、今後の社会情勢や技術の革新などを踏まえての判断が下されました。