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最後に一日のはじまりを整える、呼吸瞑想がございます。
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三月一日の禅文化研究所の講座はとても暖かい陽気で、盛会でありましたが、その二日後に行われた私たちの勉強会は、雪の舞う寒い日となりました。
そんな中でも熱心に参加してくださる和尚様方には頭が下がります。
いつもながら、平林寺の松竹老師も大乗寺の河野老師もご参加くださっています。
小川先生のご講義は、『宗門武庫』についてですが、今回は、「作用即性」の説明から始まりました。
『臨済録』にある次の一節です。
「道流、心法無形、十方に通貫す。眼に在っては見と曰い、耳に在っては聞と曰い、鼻に在っては香を嗅ぎ、口に在っては論談し、手に在っては執捉し、足に在っては運奔す。本と是れ一精明、分かれて六和合と為る。一心既に無なれば、随処に解脱す。」
というところです。
岩波文庫『臨済録』にある入矢先生の現代語訳では、
「心というものは形がなくて、しかも十方世界を貫いている。眼にはたらけば見、耳にはたらけば聞き、鼻にはたらけばかぎ、口にはたらけば話し、手にはたらけばつかまえ、足にはたらけば歩いたり走ったりするが、もともとこれも一心が六種の感覚器官を通してはたらくのだ。その一心が無であると徹見したならば、いかなる境界にあってもそのまま解脱だ。」となっています。
更に波羅提尊者の言葉を紹介してくださいました。
波羅提尊者は、「仏性は作用するところにある」と説かれます。
それは、いま現に作用しているのであって、
「母胎にあっては身といい、世に出ては人という。
眼にあっては見るという、耳にあっては聞くという。
鼻にあっては匂いを区別して、口にあってはものを言う。
手にあってはものをつかみ、足にあっては走る。
拡大すると世界を被い、収斂すると微塵に納まる。
わかる者はこれが仏性だと知り、わからぬ者は精魂と呼ぶ」という教えです。
見たり聞いたりするはたらきが仏性だと説かれたのです。
小川先生の『禅思想史講義』の中では、
「「即心是仏」といっても、「仏」と等しき聖なる本質が心のどこかに潜んでいる、というのではありません。
迷いの心を斥けて悟りの心を顕現させる、というのでもありません。
己が心、それこそが「仏」なのだ、その事実に気づいてみれば、いたるところ「仏」でないものはない。
ここから、現実態の活き身の自己のはたらきは、すべてそのまま「仏」としての本来性の現れにほかならない、そんな考え方が出てくるのはごく自然なことでしょう。そのような考え方を今日の禅研究では「作用即性」説と通称しています。
と説かれています。
いつも譬で話されるおにぎりのたとえが分かりやすいのです。
梅干しおにぎりと五目おにぎりの喩えです。
梅干しおにぎりというと、ご飯のなかに、梅干しが埋まっているのです。
ご飯を除くと中に梅干しが現れるのです。
ご飯を煩悩とし、梅干しを仏心とします。
煩悩を取り除くと仏さまの心があらわになるのです。
それに対して馬祖禅師の教えは、五目おにぎりだというのです。
要するにご飯と具は分けられないのです。
ご飯の中に具が混じり合っているのです。
仏性は、私たちの日常の心の中に溶け込んでいるのであります。
仏心仏性というと、この体の中だけにおさまっているのではないのです。
更に最近はクラゲの喩えもなされます。
これも更に分かりやすいものです。
海に浮かぶクラゲは薄い膜の中の大半が海の水であります。
クラゲの外にも海の水がいっぱいなのです。
仏性は私たちの中にも充満していて、その外にも、世界にも宇宙にもいっぱいに充満しているのであります。
また電波の喩えも分かりやすいものでした。
この部屋にはWi-Fiの電波が行き渡っています。
どこに電波があるのかと問われても目で見ることもできません。
これですと示すことも出来ません。
しかし、スマホなり、タブレットなり端末を使えば、あらゆる情報や画像、動画がそこに現れるのです。
どんな情報も画像も動画も皆電波からきています。
電波は色も形もありませんが、端末を通してあらゆる姿を現わしているのです。
電波は仏性なのです。
仏性は色も形もなく目にも見えませんが、私たちの目や耳や鼻や舌や皮膚や意識を通して現れてくるのであります。
仏性は宇宙全体にゆきわたっているのです。
馬祖禅師の示された「一切の衆生は永遠の昔よりこのかた、法性三昧より出ることなく、常に法性三昧の中にあって服を着たり、飯を食ったり、おしゃべりしたりしている。
(即ち衆生の) 六根の運用きやあらゆる行為が全て法性である。」
という教えに合致します。
『宗門武庫』に、修顒という方が、つまづいて転んだ拍子に悟ったというのは、アイタ!と全身で感じますが、それが宇宙無限大の「アイタ!」となるのです。
そこでそのまま大宇宙無限大の仏心のはたらきに目覚めるのだと言えます。
我と万物と一体という思想はもとから中国にはありました。
自己が消えて無限大に同化してゆくというのが老荘の思想にあると示してくださいました。
しかしながら、禅は無限大に目覚めで一体となりながら、しかも個体性が失われないというのです。
クラゲでいえば、大海原の心を我が心としながらも、しかもクラゲとして働いてゆくのです。
一即一切であり、一切即一というところです。
こういう教えの基盤には『首楞厳経』があると教えてくださいました。
最近出版された土屋太祐先生の『法眼―唐代禅宗の変容と終焉』に「妙明真心」ということについて説かれていると教えてくださいました。
そこで寺に帰って土屋先生の本で確認してみました。
土屋先生は難解な『首楞厳経』から、
「わたしはいつも言っている、「物質と心、諸々の因縁、心のはたらきとその対象は、心の現れである」と。
お前たちの身体も心も、みなこの霊妙なる心の中に現れたものである。」
と分かりやすく説いてくださっていました。
「我々の心と身体は、その他の無情の物と同じく、唯一の真性のなかに現れる個別で複数の現象なのである。」というのであります。
土屋先生の本は唐代の禅の思想がどのように変容してゆくのか分かりやすく説かれています。
こうしてみると朝比奈老師が説かれた、
「「人は佛心のなかに生まれ、佛心のなかに生き、佛心のなかで息をひきとるのだ。
生まれる前も佛心、生きているあいだも佛心、死んだ後も佛心、その尊い佛心とは一秒時も離れない」と仰っているのがよく分かります。
そこから、もともと仏心の中にあって、すべての営みがほとけのはたらきなのだから、なにも特別なことをする必要はないというのが、平常無事の教えです。
いや、それではだめであって、修行して悟りを開いてこそはじめて本来無事であったことに気がつくのだと批判した方々も出てきました。
黄龍禅師のもとでも東林常総禅師はもともと仏でありのままでいいと説かれ、これが平実の禅と呼ばれます。
同じ黄龍禅師の弟子である真浄克文禅師は、悟りを開いてはじめて本来無事だといって東林禅師の平実禅を批判されました。
真浄禅師の教えは、五祖禅師や圜悟禅師に影響を与えていって、今日の臨済の教えになっていると教えてくださいました。
すべてが仏のはたらきといってもそう簡単に鵜呑みにはできないものであります。
横田南嶺
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