こんにちは。公益財団法人政治経済研究所です。
私たちの詳細については、こちらのホームページをご覧ください。
https://www.seikeiken.or.jp/
第4回『政経研究』奨励賞選考委員会は、斎藤幸平氏の著書『大洪水の前に――マルクスと惑星の物質代謝』(2019 堀之内出版)に奨励賞を贈呈することを決定いたしました。贈呈式のスピーチをお送りします。
斎藤氏は、”Karl Marx's Ecosocialism: Capitalism, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy“( Monthly Review Press, 2017)で、マルクス研究最高峰の賞、ドイッチャー記念賞を若干31歳(史上最年少、日本人初)で受賞しました。本書はその邦訳増補改訂版にあたります。「資本主義批判と環境批判を融合し、持続可能なポストキャピタリズムを構想したマルクスは不可欠な理論的参照軸として21世紀に復権しようとしている」(本書p23)と展望を示す本書は、マルクス研究にとどまらず、様々な分野で国際的な評価を受けています。
本書は、マルクス関係の学会で通説となっている「マルクスは生産力第一主義で、エコロジーを無視していた」との見方を、マルクスのテキスト(新MEGAの自然科学研究ノートなど)を丹念に読み込みながら批判し、むしろ「マルクスの経済学批判の真の狙いは、エコロジーという視点を入れることなしには、正しく理解することが出来ない」というテーゼを打ち出すものです。著者は、『資本論』の展開方法の中心点が、資本の論理による素材的世界の変容と矛盾をめぐる分析であり、この方法に基づく物質代謝の亀裂の批判が、経済学体系の不可欠な一契機であるにとどまらず、持続可能な未来への展望につづくこと、したがってマルクスはエコ社会主義の方法論的基礎を提供していることを解明しました。
当選考委員会は、価値論において抽象的人間労働を超歴史的にとらえている点や、物質代謝の歴史貫通性のとらえ方に疑問がだされたが、全体として研究課題は明確であり、先行研究の適切な検討をしており、対象事実の正確な把握があり、また、守備一貫した叙述でもって、研究課題への適切な回答が提示されていて、特に、先行研究よりも体系的で包括的な形でマルクスのエコロジカルな資本主義批判を再構成した画期的意義と、民主主義をつうじて社会主義の未来社会を構想する実践にとっての現代的社会的意義を評価し、奨励賞を贈呈することにしました。
(斎藤氏は1987年生まれ、大阪市立大学経済学研究科准教授、日本MEGA編集委員会編集委員。フンボルト大学哲学科博士課程修了)