今回訪れた場所は、糸満市摩文仁「死の泉」を訪れました。
敵は、摩文仁付近一帯の将兵や避難民が、例の海岸の泉に水汲みに集まるのを知るや、哨戒艇をその直前に配置し、これを妨害し始めた。この泉の辺りには、いつしか水筒や飯盒を手にした死体が見られるようになり、「死の泉」と恐怖されるようになった。しかし生きるためには、水は絶対必要だ。夜間ちょっとした敵の油断を窺って、皆勇敢に水汲みに突進する。そして海岸の洞窟で焚いた食事は、敵前百メートルの断崖の道を山頂の洞窟に、挺身斬り込みの要領で当番兵たちが運ぶのである。
この危険な任務に服する当番兵たちの表情は、日ごとに深刻になる。参謀長の当番兵の一人が、断崖の中腹で犠牲になったのも、このころであった。一緒に行動していながら、運よく難を逃れた勝山は、例の無口で多くを語らなかったが、身も世もあらぬ様子だった。
（八原博通「沖縄決戦 高級参謀の手記」（中公文庫））より...