0:05 はじめに(境界性パーソナリティ障害)
0:53 ①境界性パーソナリティ障害とは
1:44 ②境界性パーソナリティ障害の症状
6:14 ③境界性パーソナリティ障害の診断
6:57 ④境界性パーソナリティ障害のメカニズム
8:04 ⑤境界性パーソナリティ障害の鑑別疾患・併存症
9:24 ⑥境界性パーソナリティ障害の治療
10:36 ⑥-1 枠組み設定
11:30 ⑥-2 安全の確保
13:51 ⑥-3 感情調節の技術獲得
16:05 ⑥-4 その他の技術獲得
18:20 ⑦境界性パーソナリティ障害の薬物療法
19:16 ⑧ご家族等の対応
21:04 まとめ
境界性パーソナリティ障害は「見捨てられ不安」や「巻き込み」など様々な症状が有名ですが、中核には「感情調節困難」があるとされ、治療目標の中核も「感情コントロール」になります。薬の効果は補助的で、改善には期間を要しますが、ご本人・ご家族等が症状や治療(治し方)、接し方を知っておくことは、改善のヒントになりうると思われます。
精神科医が約22分の動画にまとめています。
出演:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)
こころ診療所吉祥寺駅前 https://kokoro-kichijoji.com
府中こころ診療所 https://fuchu-kokoro.com
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↓↓内容の詳細は下記になります。
<はじめに>
境界性パーソナリティ障害は、症状の多様さや強さの他、周りが「巻き込まれて強く影響される」ことが問題です。薬の治療も補助的、外来で行えることにも限界ありますが、枠組み設定のうえでできる事はあり、またご本人・家族等が症状や対策を知ることは改善のヒントと思われます。
(1)境界性パーソナリティ障害とは
「見捨てられ不安」「束縛」などが知られますが、本質としては「感情調節困難」。これを元に、自分(自己像)や他者(他者像)、関係性(人間関係)が動きやすい病気と考えます。
治療も「感情コントロール」が柱になります。
(2)境界性パーソナリティ障害の症状
<DSM-5の定義9つ>
①見捨てられ不安
「見捨てられる」との強い不安。束縛・怒りなどの形になる場合もあります。
②対人関係の強い揺らぎ
「理想化とこきおろし」が特徴。時に本人無自覚ですが、周囲が困惑します。
③同一性の混乱
頻繁にかつ強い「気分や自己評価の揺らぎ」。感情の揺れが影響します。
④自分を傷つけうる衝動的な行為
ギャンブル・性的逸脱など。強い感情→衝動の流れです。
⑤自傷などの繰り返しや脅し
強い感情→衝動由来ですが危険あり優先的対応必要。自傷は「自己治療」として長期化の場合があります。
⑥強い気分や感情の不安定性
ストレス等での強い気分変動。時に巻き込みが生じる場合があります。
⑦慢性的な空虚感
慢性的なむなしさ。時に反動で「衝動的に刺激を求める」場合があります。
⑧不適切な強い怒り・怒りの制御困難
怒りへの「感情調節困難」強く怒り、その後落ち込むことが多いです。
⑨ストレス時の妄想や解離
強い感情を背景に、強いストレス反応として妄想・解離が出る場合があります。
<他の大事な症状2つ>
①枠組みがない状態が苦手
枠組みがないと不安定になり、逸脱・巻き込みにつながることがあります。そのため関わりでは「枠組み設定」が重要です。
②自他境界があいまい
自分と相手の距離が近くなりすぎ、「巻き込み」等が起こりやすくなります。そのため関わりでは「距離の確保」と「一貫性」が重要です。
(3)境界性パーソナリティ障害の診断
基本的にはDSM-5では2段階、まず「パーソナリティ障害の診断」→「境界性パーソナリティ障害の特色」満たし正式診断です。
<パーソナリティ障害の診断>
認知・感情・対人面・衝動、この4つのうち2つ以上に大きな偏りがあり、それが幅広くかつ社会生活で強い影響がある、が大まかな定義です。
<境界性の診断>
前述の9つのうち5つ以上が基準です。
(4)境界性パーソナリティ障害のメカニズム
諸説あるも、まず「素因」があり、そこに「経験」が足され発症に至る流れです。
<関連する要素>
①幼少期の家庭環境
ネグレクト・虐待と、逆の「過保護」双方の場合が指摘されますが絶対ではないです。
②学校や社会での経験
「不認証体験」の積み重ねの影響が指摘されます。
③発達障害傾向の影響
ストレスの影響・解釈・表出など広範囲に影響しえます。
(5)境界性パーソナリティ障害の鑑別疾患と並存症
<鑑別疾患:しばしば合併あり>
①ADHD
気分の波や衝動など、共通点の多さが指摘されます。
②躁うつ病
波の期間の違いはあるも、共通点あり、合併も多いとされます。
③他のパーソナリティ障害
現実的に他の種類との合併多く、それにより表出が多様になります。
<依存症>
①うつ病
ストレス持続からの発症・慢性化がありえます。
②社会不安障害
感情不安定等への予期不安等から併存することがあります。
③依存症(アルコール等)
衝動性を背景に、つらさの自己治療で依存になる事があります。
(6)境界性パーソナリティ障害の治療
<治療の目標>
①感情調節の技術の獲得
②対人面・生活面・認知面の技術の獲得
③(安定をもとに)「揺らぎにくい自己(+他者像・対人面)」の確立
<外来でしたい事>
①治療の枠組みをしっかり約束・定義した上で
②お互い距離はしっかり確保して安全を確保した中で
③さまざまな技術・スキルを身につけていく
<治療者に求められること>
①適切な距離を確保して枠組みを守る
②不安定に時も巻き込まれず冷静に対処
③一貫性を持って本人のスキル獲得をサポート
<治療の優先順位>
①枠組みの設定と約束
②安全の確保
③感情調節の技術の獲得。
④そのほかの技術の獲得
<①枠組み設定>
境界性障害の方は枠組みがないと不安定・巻き込みが生じやすくなり、その場合医療者も対応困難のためまずは治療の枠組みの設定が必要です。例は、
●外来の時間(再診5-8分等)
●外来以外の対応は困難
●悪化時は入院治療
そのため不安定の場合クリニックでは困難、入院可能な「病院」での対応が必要です。
<②安全の確保>
不安定時(自傷・他害・巻き込み・衝動行為)は危険大きいため、安全の確保が最優先です。
<安全確保対策>
●枠組みの設定をと約束
●不調時の「危機管理の方法」の確認
●困難時の入院の検討
<危機管理の方法>
●まずは静かな場所に移る(タイムアウト)
●他の方法での置き換え(枕投げ等)
●頓服薬の活用
<入院について>
●あくまで安全確保・立て直しのための入院
●期間は短く、感情面など「もと」の解決はしない
●感情調節などは、退院後に取り組む
<③感情調節の技術>
「強い感情」が衝動にも、対人関係の不安定・巻き込みにも(+認知の偏りにも)つながるため、一番の治療のコアは、感情を何とか「手なづけていく」こと。
<感情調節法の例:アンガーマネジメント類似>
●アンガーログ
●マインドフルネス
●グラウンディング
<アンガーログ>
●怒りが出た場面で、状況・考え・その後の結果を書いていく
●書いて振り返り、徐々に認知のくせを修正し、怒りを出にくくする
●書くこと自体が「客観視」に有効
<マインドフルネス>
●自分の状態を客観的に見る練習、呼吸を土台に体の感覚・感情・考えを見ていく
●他の感情調節法の土台にもなる
<グラウンディング>
●自分の感情を「地に足をつける」
●深呼吸土台に、五感など「外」に集中を移していき
●考え事、イライラ等から抜け冷静になる
<④その他の技術>
これらはあくまで「感情の安定」が土台、その中で獲得します。
●対人距離の安定化
●生活習慣の安定化
●自己肯定感の改善
<対人距離の安定化>
境界性パーソナリティ障害では対人距離の不安定・特に近すぎからの巻き込みがあります。この距離を観察、適切な距離に調整します。実践のポイントは「相手に求めすぎず」線引きする事。
<生活習慣の安定>
境界性パーソナリティ障害では生活習慣の乱れ・対人刺激からの不安定目立ち、生活臭リズムの一定化・刺激の制限・身体活動の活用などで改善を図ります。
<自己肯定感の改善>
境界性では、慢性的な自己肯定感低下が出やすく、すると制御力が落ち悪循環になります。対策は、過去にとらわれず今に集中し「小さい成功体験」を重ね徐々に自信をつける事です。
<⑤自己の確立(動画未掲載)>
④までを行い安定をもとに、曖昧だった「自己像・他者像・対人面」の安定化を図ります。これは生活で徐々に行われ、外来ではその進行のチェックと、必要時の方向修正をすると思われます。
(7)境界性パーソナリティ障害の薬物療法
基本的には補助的であり、頓服で使う事もあります。
<抗精神病薬>
安定図る常用の場合、不調時の頓服の場合があります。
<気分安定薬>
気分変動・衝動などの改善に使う事があります。
<抗うつ薬>
うつ持続の時検討ですが、衝動悪化リスクあり、慎重な検討を要します。
(8)家族等の対応
基本的には以下のように、医療者と共通のかかわりの方向です。
<枠組みの設定>
枠組みないと双方不安定になるため枠組み設定します。不調時・逸脱時もできれば設定します。
<距離確保・一貫した対応>
家族だと近くなりがちですが距離確保し、不調時も「巻き込まれ」を防ぎ、一貫して冷静な対応を取ります。
<家族等自身のメンタル対策>
対応継続は強いストレスになるため、不調防ぐためご家族等自身もストレス対策が大事です。相談できる人がいると心強いです。
<まとめ>
今回は、「境界性パーソナリティ障害」について見てきました。
境界性パーソナリティ障害はさまざまな症状がありますけれども、もとにあるのがいわゆる「感情調節困難」というところになります。
その中で、まずは「枠組み設定」と「安全確保」をしっかりした上で、その対策がどうしても難しいという場合は入院というのも選択肢です。なので、そういう選択肢を取れる「病院」での治療が基本になってきます。
その後安定を確保してきたら、感情調節などのさまざまな技術を学んでいくということになります。その結果、徐々にご自身の安定を図っていきながら、最終的には安定した自己をつかんでいって、安定した対人関係などもつかんでいくというところが目標になってきます。
こころ診療所グループ(医療法人社団Heart Station)
府中こころ診療所(東京都府中市宮西町1-1-3三和ビル2階、☎042-319-7887)
こころ診療所吉祥寺駅前(東京都武蔵野市吉祥寺南町1-4-3ニューセンタービル6階、☎0422-26-5695)
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【解説者】
医療法人社団Heart Station 理事長 府中こころ診療所院長 春日雄一郎
精神科医(精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医)
2005年東京大学医学部卒業、NCNP病院、永寿会恩方病院等を経て、2014年に府中こころ診療所を開設、その後医療法人化し理事長に就任、2021年8月に分院「こころ診療所吉祥寺駅前」を開業。メンタルクリニックの現場で、心療内科・精神科の臨床に取り組み続けている。