24時間365日「絶対に断らない救命救急」 受け入れ数日本一を誇る病院 なぜ可能?【Jの追跡】【スーパーJチャンネル】(2025年2月1日)
今も続く救急患者の搬送先がなかなか見つからない「救急搬送困難事案」、去年は16万件超に。そんななか、受け入れ数日本一を誇り、24時間365日「絶対に断らない救命救急」を続けている病院があります。なぜ可能なのか?その秘密を追跡します。
■車で衝突事故を起こした70代女性「胸が痛い」
神奈川県鎌倉市にある、湘南鎌倉総合病院「救命救急センター」。24時間365日、29人の医師が「断らない救急」を続けています。
現場をまとめるリーダーのひとり、関根一朗医師(40)は、「救急医というのは、専門外がないというのが専門性。どんな症状でもけがでも力になれることを考える」と話します。
午前11時、搬送されてきたのは、70代女性。車で衝突事故を起こしたといいます。
看護師
「痛いのどこです?」
70代女性
「痛いの胸」
看護師
「右側のこっちね」
「ハンドルが当たった?」
70代女性
「あの、あれなんですか。あれは」
医師
「エアバック?」
一体、何が?救急隊から事故の状況を聞きます。
救急隊
「自宅の駐車場から出ようとした際にアクセルとブレーキを踏み間違えて衝突」
女性は、ブレーキとアクセルを踏み間違え、5メートル先の壁に衝突したというのです。
動揺する女性に、関根医師が話しかけます。
関根医師
「大変でしたね」
70代女性
「もうなさけなくて。息子の新しい車だったの」
関根医師
「そうなんですか。でも、事故って何があるか分からない。命を落とす人もいるし、不幸中の幸い」
女性は、肋骨(ろっこつ)を3本折るけが。幸い大事には至りませんでした。
■「腰の痛み」を訴える80代女性 原因は?
ひっきりなしに患者がやってくる救命救急センター。取材中も受け入れ要請が重なり、わずか8分間に5人が。12室ある処置室が埋まることもありますが、それでも患者は断りません。
多い時には、処置室が埋まっていても通路にベッドを置いて対応します。センターの中で、およそ100人の患者がいたこともあるといいます。医師たちは、診察と治療を急いだといいます。
午後11時すぎ、搬送されてきたのは、「腰の痛み」を訴える80代女性です。
80代女性
「朝起きたら腰が動かなくなっちゃって」
実は、その女性、他の患者と状況が違いました。ここに来るまでに4つの病院に搬送を断られていたのです。救急車に同乗してきた娘から事情を聴きました。
搬送された80代女性の娘
「(他の)病院は満床。整形外科の先生が当直でいるところが少ない」
「深夜で腰痛を診られる医師がいない」などの理由で、4つの病院に受け入れてもらえなかったといいます。
関根医師
「痛みを和らげる治療を始めて、腰の診察もしていきます」
関根医師たちは、女性を突然襲った腰痛の原因を探ります。検査を行い、細かく確認していくと…。
関根医師
「これが新規だと思うね。腰椎(ようつい)の圧迫骨折」
背骨の一部が、つぶれるように骨折していました。高齢女性に多い症状で、せきやくしゃみなど何気ない動作でも「骨折」することがあるといいます。女性は、その後、入院して治療することになりました。
■40以上の病院に断られた90代女性
去年、患者を運ぶ先がなかなか見つからない「救急搬送困難事案」は、全国で年間およそ16万7000件。いわゆる「たらいまわし」が、今も相次いでいます。
まさに、こちらの90代女性も…。
搬送された90代女性の息子
「四十何件、断られて。こちらで診てくれるって言われた時には、あー良かった」
なんと40件以上病院に受け入れを断られ、100キロ以上離れた千葉県から搬送されてきました。
搬送された90代女性の息子
「(救急隊が)どこにかけても1時間、2時間、3時間、4時間、5時間くらいかかったかな」
なぜ搬送先が決まらなかったのか?「深夜で対応が難しい」という説明が多かったといいます。そして…。
搬送された90代女性の息子
「高齢ということと、頭を打ったのと、熱がある。3つ重なったので断られてしまった。神奈川に受け入れてくれる病院がある。遠いですけどいいですかと」
なぜ、この病院では24時間365日「断らない救命救急」が実現できているのでしょうか。取材を続けると、病院の全体会議で、あるヒントがありました。
■「3交代シフト」医師の負担減も
湘南鎌倉総合病院 小林修三院長
「救急を断らないというポリシーは、絶対に死守していかないとならない。ER(救命救急)の現場対応だけでなく、各診療科がバックアップして成り立っています」
救命救急センターに駆けつけてきたのは小児科の医師。細菌感染の疑いがある10歳の女の子の元へ。
十二指腸潰瘍(かいよう)の患者が搬送されると、「消化器」の専門医が加わり、その場で内視鏡治療。
この病院では、10以上の分野の専門医も24時間スタンバイ。病院全体が救命救急をバックアップする体制です。
医師の意識改革を行い、「断らない救急」を実現。今も改善を続けています。
そしてもう1つ「断らない」秘密があります。
関根医師
「完全3交代制。8時間ごとに入れ替えをして、自分が勤務ではない時、オフタイムは呼び出しなし」
24時間勤務が多いという救命救急で、8時間の3交代制を導入。オン・オフの切り替えによって、集中力がアップ。医療の質・効率が格段に上がったといいます。
しかし、そうなると、医師の数が確保できるのでしょうか?
肺炎の患者に話しかける久志本愛莉医師(29)。午後3時を過ぎると…。
久志本医師
「はい、終わりました。きょうも元気に帰ります」
実は、彼女の働き方は…。
久志本医師
「子どもがまだ生後9カ月で、夕方の時間を大事にしたい。9時から15時の6時間勤務で働いています」
時短勤務も取り入れ、AIでシフト管理。働きやすい環境をつくったことで医師の確保にもつながっています。
リーダーの関根医師も、5年前に3カ月の育休を取得しました。
関根医師
「自分たちの働き方を良くするのはとても大事。救急医療の質を高めようと思ったら、自分たちが元気で幸せでなければいけない」
■一時、心肺停止となった70代男性 緊急治療
そんな“絶対に断らない”救命救急に、3歳の男の子と母親が深夜に直接やってきました。
医師
「ちょっと見てもいいかな」
医師が診察するのは、男の子の鼻の中!?一体、何が?
救急外来に来た男児の母親
「お姉ちゃんが学校で育てた大豆を鼻に入れてしまった。取ろうとしても、どんどん奥に入ってしまって危ないと思って来て。先生に異物の出し方を教えてもらった」
無事、豆もとれ、診察でも異常なし。親子は安心して自宅に帰りました。
搬送されてくる患者のなかには、一刻を争う人もいます。
「胸の痛み」を訴える70代、一人暮らしの男性。救急車の中で、一度、心肺停止になったといいます。その理由は心筋梗塞(こうそく)。循環器の専門医も駆け付けます。
循環器の専門医
「心筋梗塞という症状で心臓の血管がつまっている。緊急でカテーテル治療をしないと、また心臓が止まってしまう」
意識は戻った男性ですが、いつ再び心臓が停止してもおかしくない状態です。緊急治療を行う部屋へ移動し、心臓の血管を確認します。
この部分でつまり、一部の血流が途絶えていました。
カテーテル治療は、直径およそ2ミリの細い管を血管内に挿入。狭くなった血管を医療用の小さな風船で拡張します。
医師
「そっとそっと。位置決めはそっと、もうひとこえ」
1時間に及ぶ治療で、つまっていた血管の血流が回復しました。
医師
「お疲れ様です。(血管の)流れが良くなったので、治療はうまくいっています」
翌日、集中治療室に入院する男性は、胸の痛みも消え、順調に回復していました。
心筋梗塞で搬送された70代男性
「ちょっとおかしいと思ったら、すぐに病院に駆け付けるのがいい。年には勝てません」
絶対に断らない救命救急。まさに今も、患者の命と向き合っています。
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