河竹黙阿弥作のお芝居「天衣紛上野初花」の直次郎と三千歳の色模様の場面で演奏される清元「三千歳(忍逢春雪解)」から採った小唄で、束の間の儚い逢瀬を唄っています。
解説:春まだ寒き雪の夜、お尋ね者の直次郎は、一目会って高飛びする気で、入谷村の大口寮になじみの遊女・三千歳に会いに行きます。清元は余所事浄瑠璃として、この逢瀬の中、隣家から清元が聞こえてくる体で演奏され、音楽と情景表現を兼ねています。
「寒さをかこう袖屏風」は、三千歳が直侍の後ろから両袖で肩を抱く処です。「隙間を洩るる雪下ろし」は、三千歳と直次郎の引っ張りの見得、送りの三味線は雪模様に捕り物の合方を表しています。前弾きの「チチチンチンチンチン・・・」は、直次郎の出の合方の雪模様です。
歌舞伎では、「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)」の六幕目にあたり、「雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)」の名題で独立して上演されることが多いです。小唄も、この場面から採ったものが幾つかあり、途上人物の三千歳や直次郎(直侍)に当てて副題がついていますが、当小唄は入谷の寮の情景を描いています。
昭和十二年 市川三升作詞 吉田草紙庵作曲
小唄備忘録500番-その210「一日逢わねば(入谷の寮)」(3分27秒)
画は、豊原国周「梅幸百種之内」「直侍」「みちとせ故岩井半四郎」です。
写真は、十五代目羽左衛門の直次郎と六代目梅幸の三千歳です。昭和48年6月新橋演舞場の玉三郎の三千歳、海老蔵(当時)の直次郎、昭和59年3月の玉三郎の三千歳、海老蔵時代の12世團十郎の直次郎です。