■西村朗/ベートーヴェンの8つの交響曲による小交響曲(2007)
※本作品の楽譜は全音楽譜出版社より発刊されてます。http://shop.zen-on.co.jp/p/900013
いずみホールは2007年に、日本を代表する室内管弦楽団5団体によるベートーヴェン交響曲全曲演奏シリーズを企画した。そのトリ、12月15日に《交響曲第9番》の演奏を担当したのが飯森範親指揮のISOである。その前奏曲として委嘱された本作は、ベートーヴェンの《第1番》から《第8番》全てを凝縮した内容であり、シリーズを聴いたお客様にとっては回想のような、聴いてなくともダイジェストのような役割で《第9番》を導くという、音楽監督一流のウィットに富んだはからいとなっている。(西村朗の創作全体の中では異色な存在だが、さすが何をしても巨匠の技が光る。)4つの楽章は、8曲の交響曲の各対応楽章から素材を引用し再配列されており、原曲に近いものから大きく変形されたものまで様々である。しかも有名な主題そのものが引用されているとは限らないので、詳しい人もそうでない人も、記憶の扉をくすぐられ続ける興味深い体験となる。
第1楽章 Allegro con brio
第1番の序に始まると思いきや一気に主題に至る。第2番に続き、第3番の3拍子の主題がポリリズムで重なり合う。第3番の和音強奏部分を経て、第4番の序から第5番へ。減七の和音による連打が断ち切られるところに第6番の主題が使われ6/8拍子に転じて第7番が登場。再び第1番の主題に戻ると第8番の主題が接合して閉じる。
第2楽章 Andante
同様に全楽章の要素が散りばめられているが、ここではティンパニによる第7番のリズムがオスティナートとして打たれ続ける中、それに乗って絵巻のように展開する。
第3楽章 Scherzo / Allegro vivace
第3楽章は全曲3拍子であることから接合度は高い。しかしだからこそ各素材の共通点も多く、脳内に記憶のカオスを成す。ティンパニの連打からアタッカで第4楽章へという流れは第5番を踏襲。
第4楽章 Finale / Allegro
変幻自在に各第4楽章の素材を織り上げていく。第6番には第5楽章があるが、その素材はコーダの部分に登場し、それを契機に回想、執拗な反復など、「ベートーヴェンのコーダ」のクリシェが踏襲されて締める。
(解説:川島素晴/いずみシンフォニエッタ大阪プログラム・アドヴァイザー)
指揮:飯森範親
ヴァイオリン:小栗まち絵、池川章子、永ノ尾文江、大谷玲子、佐藤一紀、釋 伸司、高木和弘、田辺良子、谷本華子
ヴィオラ:大江のぞみ、竹内晴夫、馬渕昌子
チェロ:林 裕、丸山泰雄/コントラバス:黒川冬貴
フルート:安藤史子/オーボエ:古部賢一
クラリネット:上田 希/ファゴット:東口泰之
ホルン:木川博史、村上 哲
トランペット:辻本憲一/トロンボーン:呉 信一
パーカッション:山本 毅、伊藤朱美子、細江真弓
2017年2月11日「第38回定期演奏会」 いずみホールにて収録
特別協力:株式会社 全音楽譜出版社 http://www.zen-on.co.jp/