0:05 (1)はじめに
0:38 (2)「空気を読めない」とは?
2:01 (3)「空気を読みにくい」精神疾患
5:41 (4)「空気を読む・読めない」の影響
7:57 (5)「日本の若者文化」での影響
10:49 (6)「空気を読めない」への対策
13:01(7)まとめ
「空気を読めない」とは、その場や相手の非言語的な状況を察して動くのが困難なこと。特にASD(自閉症スペクトラム)では、相手の立場等を「無意識に感じ取る」ことが困難です。対策はASDであれば、「意識的取り組み」で「無意識の困難」をカバーすることです。
精神科医が要点を約14分の動画にまとめています。
出演:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)
こころ診療所吉祥寺駅前 https://kokoro-kichijoji.com
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↓↓内容の詳細は下記になります。
(1)はじめに:空気を読めない
心療内科、精神科の症状。今回は「空気を読めない」についてやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
特に日本の若者の文化では、「場の空気を読める」ことが非常に大事なスキルとされがちです。
一方で努力をしてもなかなか空気が読めず、その場で低く評価されたり、非常に苦悩する経験を持つ方も多いです。
今回は「空気を読めない」について見ていきたいと思います。
(2)「空気を読む」とは?
これは「その場で求められる言動をする」こと。
<空気を読むとは>
これはその場の雰囲気・相手の感情や態度を察知して、それに対し適切に対応していく能力です。
これは言語以外に「非言語的な手がかり」表情・声の調子等も含まれます。
特に協調性を重視する日本では、非常に強く求められる技術です。
そして、場によって重要な要素は変わってきます。
①ビジネスの交渉
ここでは枠組みや獲得目標が明確です。
この場合「空気を読む」は技術的には有利ですが、それ以上に誤解がない形で「明確に話し」「共有していく」ことが大事です。
そして1種の「失言」が打撃になる場合があります。
②雑談
これは逆に枠組みや獲得目標というのが非常に不明確です。
一方で、感情のやり取りなど非言語的な側面やプロセスを重視します。
そして、その場では、相手からの評価は、多くは「相手の感情」で決まります。
(3)空気を読みにくい精神疾患
これは主にASDとADHDです。
①ASD
ASDは気を読むのが苦手な発達障害です。
<ASDとは>
ASDは「社会性の障害」と「こだわり」の2つが特徴的な生来の発達障害です。
幼少期での診断が多いですが、成人後不適応などで判明することもあります。
苦手の中で、特に「雑談」での「空気を読む」ことが苦手との指摘があります。
<相手の立場に立てない→サリーとアン課題>
これは、サリーとアンという二人がいて、サリーが自分のバスケットにパンを入れました。
サリーがいなくなってから、もう一人のアンがパンを自分のところに入れてしまいました。
その後にサリーが戻ってきました。
この時サリーはどちらからパンを取り出すでしょうか
正解は「サリーのバック」になりますが、これASDの方だとよく間違えます。
相手の立場、「サリー側の立場」に立つことがきないからと解釈されます。
このように、「無意識に相手の視点をとれない」事が、ASDでの「空気を読めない」背景です。
<別府・野村のご信念課題の研究>
先ほどの課題、ASDがあっても年齢を重ねるとできるようになることがあります。
しかしその「わかり方」に違いがあるという話です。
ASDない人は、正解時に「説明できない」人と「説明できる」人、両方いました。
一方ASDでは、正解の場合ほぼ「説明できた」結果でした。
<この研究からの推測>
ASDでは、無意識に「説明できないけど感じ取れる」ことは成長後も困難と推測されます。
一方で「理論でカバーする」事は成長後にできうるとも推測されます。
なので「空気を読む」件も、それが言語化・明確化されていればカバーの期待があります。
②ADHD
ADHDでは、「不注意と衝動が場を壊しうる」事に注意です。
<ADHDとは>
ADHDは不注意・多動・衝動性が特徴の生来の発達障害です。
これも幼少期の発見が多いですが、成人後不適応でわかる場合もあります。
特に社会的な場面でつい衝動から失言等が出る事が指摘されます。
<特性と失言等の関係>
不注意→「つい(だめと気づかず)」言ってしまう
多動→興味の移ろいで相手の関心とずれ、失言等につながります。
衝動→特に怒りなど感情が強まった時衝動から失言・問題言動が出る事があります。
(4)空気を読む・読めないの影響
特に雑談では大きな意味があります。
<対人交流の基本>
多くの人の特性として好きなことが欲しいし、それを奪われたくないということがあります。
その中で欲しい物等を貰えればうれしいし、それを奪われるとすごく嫌になります。
これは物に限らず、非言語的なやりとりでも同様です。
<空気を読み交流できると>
まずは無意識にこの「人は与えられると喜ぶ」「人に与えることができれば好かれる」ある種の「方程式」に無意識に気づけます。
そして普段から無意識にかつこまめに相手に何かを与える(物より感情面で)ことができ、普段から好かれやすくなります。
そして何かを要求する時、要求はどうしても「奪う」側面がある事を無意識に把握し、他のことでカバーして影響を最小化し、嫌われることを防ぎます。
<空気を読めない場合(ASD等)>
まず「相手に与えれば好かれる」相手視点の方程式に、無意識にはなかなか気づきません。
そして普段から無意識に「相手に何かを与えてポイントを取る」ことができず、普段から好印象を持たれにくいことになります。
そして何かを要求する時、要求の悪影響に気づかず「カバーしない」ことで影響が増加、嫌われることが多くなります。
ビジネス等なら他の要素で薄めることも可能ですが、雑談だと濃厚に影響が出ます。
(5)日本の若者文化での影響
これは、「日本」と「若者」の2つの要素が重なり、影響が増えます。
<日本①協調性を重視する文化>
日本では、「空気を読む」ことがある種の「思いやり」人格的評価と結びつきやすい面があります。
そして「言語化」「主張」が、しばしば「相手を侵害」する的なマイナスの要素と捉えられます。
そして、他者への「リスペクト」も意見より「空気を読む」ことで表現されやすく、空気が読めないと無礼と思われることがあります。
<日本②単一民族>
日本は基本的には「単一民族」のため、ある種文化的背景は共通しており、「言わず察する」ことが成立しやすい面があります。
欧米等は多民族文化で、文化・教育など背景が多様です。そこでは「察する」事は困難、明確化しないとすぐ衝突になります。
どうしても文化的な背景が違う時に、この「空気を読む・察する」ことは現実的には非常に困難です。
<若い世代と「空気」>
学生では仕事などの明確な役割がないため、人間関係の土台も一種「雑談」的なものになります。
そして中学・高校等、「所属する集団」がしばしば固定され、その集団での適応が求められます。
そして、若者文化の特徴として、広い意味で「内面」より「外見(空気を読む力も含め)」を重視する面が示唆されます。
(6)「空気を読めない」への対策
「弱点を知りカバーし、その上で強みを活かす」が要点です。
ASDですと、「無意識の障害」を「意識でカバーする」。
ADHDですと、「一歩引いて冷静に判断する」という反復練習です。
<ASDでの対策>
まずは「無意識に」空気を読んで適応することはかなり困難との現状を知ることです。
そして「意識的に」ルールを知り、他者に「与える」ことを意識するなど理詰めでカバーをしていきます。
そして、すぐの結果は厳しいですが、学習と実践と修正を繰り返し、徐々に精度を上げていきます。
<ADHDの対策>
まず、失敗の大半は「衝動」由来なことを知ることです。
そして、「純粋な衝動」は、それを感じた時まず一歩引き、「本当にすべきか」冷静に判断することを反復練習します。
そして土台の「アンガーマネジメント」獲得。怒り由来の衝動が特に危険のため、怒りをまず制御し、リスクを減らします。
<共通の対策:強みと環境調整>
できる範囲での改善は有効です。一方、どうしても限界は残ることがあります。
ここは、他の強みを生かすことで、弱点は残りますが「強み」で塗ってカバーすします。
そして、その「カバーができる環境」を選んでいくことが大事です。
(7)まとめ
今回は、心療内科・精神科の症状「空気を読めない」ということに関して見てきました。
「空気を読む」は、相手や場のことを察し、それに対応していく、日本で特に求められる能力です。
発達障害でこれが苦手なことは多いです。ASDは「非言語的なものを読み取ることの障害」。ADHDでは、衝動での失言等が主な背景です。
対策はその弱点を知った上で、まずそれをできるだけカバーすること。
そしてそうしても弱点は一部残りますが、それを長所でカバーすること。そして長所でカバーできる環境を選ぶことです。
こころ診療所グループ(医療法人社団Heart Station)
府中こころ診療所(東京都府中市宮西町1-1-3三和ビル2階、☎042-319-7887)
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【解説者】
医療法人社団Heart Station 理事長 府中こころ診療所院長 春日雄一郎
精神科医(精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医)
2005年東京大学医学部卒業、NCNP病院、永寿会恩方病院等を経て、2014年に府中こころ診療所を開設、その後医療法人化し理事長に就任、2021年8月に分院「こころ診療所吉祥寺駅前」を開業。メンタルクリニックの現場で、心療内科・精神科の臨床に取り組み続けている。