MENU

Fun & Interesting

ヨルシカ - へび(OFFICIAL VIDEO)

Video Not Working? Fix It Now

拝啓 先日気球の詩を送ってから、僕はずっと考えていました。知識欲についてです。それが何処から生まれて、何処に留まって、何処に流れるのか。知るということが昇る気球と似ていると先日僕は手紙に書きましたが、なら、僕の内の「知りたいと思うこと」のその源泉を探るべきじゃないかと思っています。きっと、それは知ることとは異なる要素です。「知る」は行動やその結果で、「知りたい」は心の話ですよね。僕の根本はそこを突き詰めればわかるのかもしれない。 あれから僕は、他人の詩を読むことを進んで行うようになりました。僕自身を広げるための知識の蒐集です。逆に言えば、それしか出来ないのかもしれないですが。兎に角、母国語だけでは心許ないので、海外の詩にも手を伸ばしています。先週読んだのは唐詩を集めた詩集でした。そうして以前の手紙で先生が教えてくれた、元稹の「離思」もそこに見つけました。本から一節を書き写します。 曾經滄海難爲水 除卻巫山不是雲 かつて滄海を経たれば水難しと為さず 巫山を除却すれば 是れ雲ならず 本の解説通りに意訳すると、大海を知っているものはただの水では満足できない。巫山の雲以外は雲とは思えない。でしょうか。 この詩、愛の詩だったんですね。元稹は妻を亡くしていて、それを知ると詩の全体像が変わりました。「海」も「雲」も妻との出来事を指し示す比喩で、もう死んでしまった人間に、あなたとの時間以外は価値がないと歌っている。先生が教えてくれたのは、そういう詩の一部分だったんですね。文脈を知るだけで、ただの数十字にこんなにも鮮やかな色がつくなんて。やっぱり、知ることは素敵だと思いました。こういうのって、何て言えばいいんだろう。絶対的で間違いがなくて。きっと努力次第で誰にでも差し込む、ただ美しい光です。 それで、へびの詩を書こうと思いました。元稹の詩を借りて、知ることをへびに喩えた詩です。 脈絡が無いと思われますよね。それでも僕はへびと、知りたいと思うことの関連性を感じています。母の書斎で、ミルトンの失楽園を見たからなのかも。聖書の中で、へびは知恵の実を食べることを人間に唆しますよね。知ることへの欲求が、へびそのものに姿を変えたみたいだ。 へびが知への欲求なら、僕を取り巻く未だ知らないことは冬の地表です。 雪解けを待って土から這い出たあと、僕というへびはたくさんのものを目にします。見ることと知ることはきっと限りなく同一で、山を通り抜ける風や、草の葉から差す日差しのゆらめき、谷川の水の冷たさを僕は一身に浴びて、春の全てを知ったような気持ちになります。朝の森に生えたブルーベルの上を滑らかに滑りながら、日光浴をして。 そこまで想像して、僕は何だか、何かが足りない気持ちを知ります。たぶん元稹の詩のことを思い出したからです。僕は自分というへびと、あの詩を重ねて、春の雲の中心に穴が空いているような感覚を覚えたのです。 もうすぐ秋になりそうです。 お体にお気をつけて。 敬具 ヨルシカ - へび Yorushika - Snake 作詞作曲、編曲(Words and Music): n-buna Vocal:suis アニメ「チ。 -地球の運動について-」EDテーマ https://anime-chi.jp/ Digital Single「へび」 各配信サイト&サブスクリプションにて配信中。 https://yorushika.lnk.to/snake Official Site https://yorushika.com/ X https://x.com/nbuna_staff Instargram https://www.instagram.com/yorushika_official_ TikTok https://www.tiktok.com/@yorushika_official ■MV Credit Director:佐藤 美代 Animation:桑 宇軒 許 煒 syun shin 佐藤 美代 Composite:Monster’s Egg Compositor:落合 由貴 Composite Supervisor:野村 達哉 Production Desk:高山 明人 Production Assistant:蒲田 聡美 ■歌詞 行方知らずのあの雲を見た わたしの鱗はあなたに似ていた 舌は二つ、まぶたは眠らず ぼやけたよもぎの香りがする 行方知らずのあの雲の下 わたしの心は火の粉に似ていた 靴はいらず、耳は知らず 冬の寝息を聞く ブルーベルのベッドを滑った 春みたいだ シジュウカラはあんな風に歌うのか 海を知らず、花を愛でず、空を仰ぐわたしは また巫山の雲を見たいだけ 行方知らずのあの雲の下 あなたの鱗は日差しに似ていた 雨を知らず、触れて熱く ぼやけたよもぎの香りがする 芽吹く苔のベッドを転がった あの頃みたいに カタバミはこんな風に柔いのか 春を知らず、花を愛でず、風を舐めるわたしは ただ海の深さを見たいだけ あの大きな海を経れば あの雲の白さを見れば あなたとの夢の後では 他には ブルーベルのベッドを滑った 春になれば ホオジロはあんな風に笑うのか 海を知らず、花を愛でず、空を仰ぐわたしは ただあなたを見たいだけ 行方知らずのあの雲の下 わたしの心はあなたに似ていた 舌は二つ、まぶたは眠らず いつか見たへびに似る

Comment