一柳慧 往還楽 Toshi ICHYANAGI "Ôgenraku"
Naoyuki MANABE GAGAKU Ensemble 2024公演
伝統と革新2
〜古典を紐解き、未来の伝統を創造する〜
2024年11月17日(日)15時開演 北とぴあつつじホール
主催: Naoyuki MANABE GAGAKU Ensemble
共催:(公財)北区文化振興財団・東京都北区
北とぴあ国際音楽祭参加公演
助成;アーツカウンシル東京
http://sho-manabe.net/konzert/20241117/
出演Naoyuki MANABE GAGAKU Ensemble
笙 ;豊剛秋、永井大志、青木総喜、川上彩子
篳篥;三浦元則、國本淑恵
笛 ;纐纈拓也、太田豊、岩﨑達也、藤脇亮
特別出演
笙 ;豊英秋
賛助出演
篳篥;柏木理、中村朋子
笙 ;下宮弘聖
箏 ;城戸 さくら
打楽器;戸崎可梨
指揮;真鍋尚之
★一柳慧《往還楽》
一柳慧(1933-2022)は日本を代表する作曲家でジョン・ケージをはじめとするアメリカの前衛音楽を広く日本に紹介し、日本の音楽界に衝撃を与えた事でも知られています。オーケストラ作品からオペラまで幅広く作曲し、日本の管弦楽作品に与えられる「尾高賞」を4度受賞。さらに国立劇場の委嘱作品を含め日本の伝統楽器の作品を数多く作曲しています。
私自身多くの一柳作品を演奏し、委嘱もしました。笙や雅楽の楽器のための作品の多さはほかに追随を許さないほどです。笙の代表作である《星の輪》は1983年に作曲され伝統に寄り添った形でありながら、当時それまでの笙の奏法を覆すほどの衝撃的な作品でありました。そのわずか3年後に書かれた《時の佇い》は雅楽の世界から完全に脱却し、楽器の持つ技術と性能を最大限に引き出す作品となりました。しばらく全曲が再演される事はなかったほど技術的に難しい作品でした。2001年に私が再演して以来たびたび演奏しています。この作品が拙作《呼吸III》の作曲の起爆剤となり、さらに川島素晴の《手遊び十七孔》、そして拙作の《Invention IV》へと繋がり、笙の楽器の可能性が以前では考えられなかったほど進化を遂げています。
《往還楽》は国立劇場の委嘱で1980年に声明との作品として作曲・初演、1996年に雅楽の部分だけを取り出し改定されました。《星の輪》から《時の佇い》へいたる前後に作曲され、その両面を見出す事ができます。
琵琶と箏は薩摩琵琶および俗箏を想定して楽譜は書かれていて、国立劇場での初演も雅楽の演奏家ではない奏者が担当。打楽器を担当したのも西洋打楽器の奏者でした。
我々NMGEは雅楽のレパートリーとして定着させる事を目指しており、雅楽の楽器である楽琵琶と楽箏で演奏することとしました。かなりの困難は極めましたが、琵琶は豊剛秋により作曲家の意図した形に近づく事が可能となりました。箏ももちろん雅楽の演奏家が演奏する事を目指し、生田流の城戸さんに指導を受けながらリハーサルを重ねました。近い将来雅楽の演奏家も演奏できる希望を持てる成果を上げましたが、今回は城戸さんに演奏をお願いする事としました。
また打楽器に関しても極力雅楽の演奏者で演奏する事を目指し戸崎可梨さんの協力の下リハーサルを進めました。雅楽的な奏法の部分は雅楽演奏家が、明らかにPercussionという部分は打楽器奏者が演奏する方が理に適っていると判断し戸崎さんにも加わっていただく事としました。
NMGEの軌跡 〜100年後の伝統へ〜
1300年の歴史を持つ雅楽。平安時代には残楽や今様など多くの演奏形態や様式が生まれ、その時々の趣向に合わせ、現代に残る伝統へと発展していきました。平安時代から現代に至るまで、これらの時代考察や当時の演奏を再現するなどの研究は数多く行われてきました。しかしながら新しい演奏様式を伝統を用いて作り出そうという試みは多くはありませんでした。
前回のNMGE演奏会では初演から50年を迎えた武満徹《秋庭歌》と若手注目作曲家である中堀海都の新作を取り上げました。舞台を客席を取り囲む四方に配置し、季節ごと楽器ごとに配置した《調子》を前奏曲としてプログラムを形成。演出の効果も合わせ、伝統と現代を繋げることに成功しました。伝統と現代の境目がなく「現代曲は古典に聞こえ、古典は前衛作品のように鳴り響いた」との評価を受けました。これがNMGEの求める姿なのです。
これからのNMGE 〜新たな伝統の創造へ〜
現代の作曲家による委嘱作品は、これまで伝統の創造というよりは作品の創造という位置付けでした。新しい創作活動はこの半世紀で多く行われるようになりました。盛んに活動が行われる一方、伝統との乖離 が起こってきたことも事実でしょう。安易な創作活動は伝統を破壊することにも繋がりかねません。前回の演奏会で伝統と現代の垣根を埋める事ができた今、さらなる展開を目指しています。
新しい創作活動は特に国立劇場が数多くの作品を委嘱・上演してきました。前回のNMGE演奏会では武満徹《秋庭歌》を取り上げましたが、他にも初演された後再演される事なく埋もれてしまった作品も数多く存在しています。今回はそれらの中から一柳慧《往還楽》を取り上げます。同じく前回公演で委嘱した中堀海都《星霜》の続編の委嘱・初演も行います。この作品は3-4曲からなる組曲として構想されており、来年以降も継続して一連の作品を作り出します。今回はその2曲目の作品を初演します。
それらとともに4年に渡り続けてきた《神楽歌》全曲上演。今回は《篠波》(さざなみ)。退吹の《調子》や《喜春楽》などを組み合わせ、伝統と未来の創造、前衛作品の作曲の歴史を辿り、雅楽の未来までを俯瞰するプログラムとなります。
Naoyuki MANABE GAGAKU Ensemble(NMGE) 「伝統を重んじ研鑽を続ける演奏家のみ新たな伝統を創造し得る」との理念の下 2020年コロナ禍で結成。伝統に根ざしながら、庭園や遺跡・劇場空間を使い、舞台と客席という形式に捉われない演奏形式を用い、新しい演奏スタイルでの公演を行なってきました。雅楽の持つ音楽的要素を取り出し、作曲家である真鍋尚之が《調子》や二群による退吹・追吹(おめりぶき・おいぶき=旋律をずらして演奏する奏法)、退舞(おめりまい=舞をずらして舞う)の奏法を用いた演奏で新しいスタイルを考案。新しい伝統となり得る企画を創出しつづけています。