この番組では登山に必要な知識をWebセミナーという形式でご説明しています。
今回は、「熱中症対策 登山ならではの落とし穴とは」というお題で、登山時の熱中症対策についてお話していきます。屋外で行動するスポーツですので、場合によっては命の危険を伴うものですので、ぜひ安全に登山を楽しんでいただくために、万全の熱中症対策をしていただければと思います。
●日本スポーツ協会の提言
公益財団法人日本スポーツ協会がとまとめた、スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブックの冒頭に「スポーツによる熱中症死亡事故は無知と無理によって健康な人に生じるものであり、適切な予防措置さえ講ずれば防げるものです」とあります。
知っていれば、防げるというものですので、ぜひ適切な対処法を覚えていただければと思います。
【参考リンク】
公益財団法人日本スポーツ協会:https://www.japan-sports.or.jp/
スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック:https://www.japan-sports.or.jp/publish/tabid776.html#guide01
●熱中症とは
熱中症は、暑さによって生じる障害の総称です。熱失神・熱けいれん・熱疲労・熱射病などのタイプがあります。
・熱失神:暑さで体温が上がると、体の熱を外に逃がして体温を下げるために、皮ふの血管が広がります。そうすると、皮ふに血液が偏り、結果として全身を流れる血液の量が減り、血圧が下がり、脳に流れる血液が通常よりも少なくなります。
これにより、血の気のない顔、めまい、失神などの症状がでてきます。一方、なんとか脳に酸素を送ろうと、呼吸が速くなったり、血を送ろうと、脈も速くなります。ただ、熱失神が単独で起こるということは少なく、他の症状とあわせて出てくることが多いです。
脳に血が行っていないことが原因ですので、足をザックなどの上にのせて、高くしてあげることで、心臓への血流を改善させ、脳に血がいくようにします。
・熱けいれん:暑いと汗をかくわけですが、汗には塩分も含まれており、大量に汗をかくことで、血液内の塩分が不足したときに熱けいれんが起こります。ただ汗をかくだけではなく、塩分をとらずに、大量に水分をとると、体内の塩分濃度がどんどんさがるので、よく、熱中症対策として塩分もとりましょうといわれているのはこのためです。
塩分は、神経や筋肉が正常に機能するのに重要な役割を果たしています。塩分の体内の濃度がいつもとは異なる状態になると、体に異変が生じます。
熱けいれんは、筋肉が強く収縮する症状です。筋肉は、収縮すると硬くなって緊張して、その際に痛みが生じます。軽度であれば、塩分を含んだものを摂取することで収まります。重症になると、塩分を点滴により補給します。
・熱疲労:発汗して体の塩分と水分が、過剰に失われた状態です。体の血液量が減ってしまうため、脳や体に必要な血液がまわらず、さまざまな症状がでます。そのために、暑さに起因して症状がおこっていることに気づかない人もいます。
・熱射病:体内の塩分や水分が不足したことに起因して、体温をコントロールする脳の機能がおかしくなってしまうものです。症状としては、意識障害と同時に体温が40℃以上まで上昇します。脳の体温をコントロールすることが難しくなってしまっているため、体温が高いにもかかわらず、汗もかかず、肌が乾燥してるという、異常な状態です。
●対処チャート
まず熱中症かもという疑いがでたら、
①意識があるかを確認します。
②意識があれば、涼しい場所へ避難させ、水分補給・塩分補給を行います。これで改善が見られれば経過観察となります。
③しかし、水を飲みこむことさえ困難な状況であったり、水分・塩分を摂取できたとしても、改善が見られないようであれば、医療機関へ搬送となります。
④もし意識がない場合または、応答が鈍い、言動がおかしいなどの、いつもと違う状況の場合は、すぐに救助を要請します。その間に、涼しい場所へ退避し、着こんでいるようであれば、服を脱がせ、可能な範囲で体を冷やすなどして医療機関の搬送を待ちます。
これは、街中であればこれらは比較的容易に対処できるものですが、登山では難しいものです。
例えば涼しい場所へ避難するにしても、そもそも日陰などなく、退避できる場所がないかもしれませんし、水分・塩分補給をしようとしても、十分な量を携帯していないかもしれません。また、救助を要請しようとしても、そもそも携帯がつながるのかとか、場所的に救助ができる場所なのかという点もあります。
仮に救助要請ができたとしても、山中という場所がら、街中のように数分で救急車がくる、という場所ではありません。自分たちで冷却しなければなりませんが、そもそも応急的に冷却できるものを所持しているのか、という問題があります。
さらに、医療機関への搬送まで、そして搬送自体そのものが時間がかかることが予想されます。つまり山中で熱中症になってしまうと、非常に危険な状態になりやすいといえます。
●熱中症予防の暑さ指標
最近、「熱中症警戒アラート」という言葉を耳にします。
熱中症の暑さとはどのように定義されているかご存知でしょうか。熱中症予防の指標として、WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature)が用いられています。暑さ指数とも言われています。
暑さに関係する要因として気温、湿度、輻射熱、気流の4つで定義されています。
【参考リンク】
・環境省熱中症予防情報サイト
https://www.wbgt.env.go.jp/
・暑さ指数(WBGT)とは?
https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php
・暑さ指数(WBGT)について学ぼう
https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_lp.php
・暑さ指数(WBGT)の詳しい説明
https://www.wbgt.env.go.jp/doc_observation.php
●予防のための対策
・暑さ指数をチェックする:目的地に近い場所の暑さ指数をチェックする癖をつける。このチャンネルは低山向けでありますので、低山ですと街中の指標に近い値になるかと思います。
・水分補給:体格や山の難易度によって摂取する量の目安があります。「登山での適切な水分補給のタイミングと量」で解説しております。
【参考動画】
登山での適切な水分補給のタイミングと量
https://www.youtube.com/watch?v=WLwVRPPuDlA
・塩分補給:水分だけ摂取すると体内の塩分濃度が薄くなり、よく「水中毒」と言われる状態になります。塩分を適切にとることが必要ですが、厚生労働省及び日本体育協会が推奨する飲料の塩分濃度は0.1~0.2%です。100mℓ中に40~80mgのナトリウムが必要です。塩飴やスポーツドリンクなどで補給します。
【参考リンク】
スポーツドリンクの比較
https://kanri.nkdesk.com/otc/os1.php
「スポーツドリンクで糖分を摂取しすぎないように注意」といわれてますが、登山ではずっと活動しているので、糖分は計画的に摂取する必要があります。
【参考動画】
レジェンド達の行動食!有名登山家の行動食と、みんなの食べてる行動食を分析してみたよ。
https://www.youtube.com/watch?v=nWzxlQFneGQ
まだ登山でバテてるの?登山で疲れないためのカーボローディングを解説するよ 登山×初心者向け
https://www.youtube.com/watch?v=guTK-vI0RQQ
命にかかわることなので最後まで聞いてほしい。自分のレベルあった山の見つけ方 登山×初心者向け(11:40くらいからカロリーの話をしています)
https://www.youtube.com/watch?v=RomzjYdMzs
●万が一熱中症になってしまったら(冷やし方)
①意識があるかの確認
②涼しい場所へ移動(木陰など)
③服のボタン、ベルトなど衣類を緩める(必要であれば脱がせる)
④水分、塩分を補給させる
⑤体を冷やす(皮膚表面にある太い血管。位置は左の画像参照)
・まずは既に露出している首を冷やす(首の両サイド、頸動脈を冷やす)
・脇にも太い血管があるので冷やす
・足の付け根
⑥冷やす道具は何がある?
●冷やす道具
もっとも手軽なのが、タオルを濡らして冷やすというものです。わきの下、ビキニラインに当てる場合、衣類が濡れるのでタオルをビニール袋に入れて患部にあてるという手もある。
次に凍らせたペットボトル。こちらは夏の水分の持参で実践されている方も多いのではないでしょうか。少しかさばることになりますが、あえて、小さめのペットボトルを凍らせて持参するという手もあります。複数の患部を冷やせるように、小さいペットボトルを複数持つという手です。また保冷バックは低山では重量もそんなに気にならないと思いますので、直近で飲むもの以外は保冷のために、積極的に活用したいところです。
そして瞬間冷却材。ホッカイロのような袋に入っていて、叩くと瞬時に冷たくなるという商品が売られています。こういったものを持参するのもよいです。冷たく感じる時間は製品にもよりますが、長くて30分ほど。だいたい100円ちょっとで売られています。なお、瞬間冷却材は自作もできますので、ご興味ある方は調べてみてください。
その他、扇子などであおいで熱を発散させたり、やれるだけのことはやります。いつまで冷やすかは体調が楽になってくるまでひたすら冷やすということになります。少し楽になっても体調がおかしければ、医療機関に行ってください。熱中症は大人でも数日回復に要しますし、重症であれば回復に月をまたぐこともあります。
●さいごに
熱中症にならないために無知と無理をせず適切な予防措置を講じ安全に登山を楽しみましょう!
#登山 #Webセミナー #熱中症
twitterでも細かいネタをつぶやいてます。
https://twitter.com/TEIZANHIKER
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★その他にも登山に役立つ知識をご紹介しています。
・登山スキル Webセミナー(ウェビナー/オンラインセミナー)
https://www.youtube.com/watch?v=RomzjYdMzsM&list=PLdmwTiEcs1sYAzNFDeU-tkTfnA8IkcUi0
★その他のシリーズはこちらをご覧ください♪
・season1 大楠山
https://www.youtube.com/watch?v=hbD8uvkLq_8&list=PLdmwTiEcs1sYp1-KJmnQlMXsCM5TYJJ-5
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・season3 三浦富士・武山
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・season4 湘南アルプス
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・Google Earthで仮想登山
https://www.youtube.com/watch?v=9A63Z9vlQn0&list=PLdmwTiEcs1saX8LnpspAdJUkFia0fwpCz
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