0:00 (1)はじめに
0:17 (2)発達障害(ADHD・ASD)について
0:53 (3)発達障害は個性?障害?
1:35 ①日本での議論の経過
3:22 ②外国(アメリカ等)での議論の経過
4:56 ③どちらを重視する意見もありうる
6:40 (4)発達障害を受け入れるときは「障害」と「個性」の双方を受け入れる
9:03 (5)結論:発達障害は「障害」であり「個性」
9:48 (6)まとめ
発達障害(ASD/ADHD)は「障害」でしょうか?「個性」でしょうか?これは日本のみならず各国で歴史的経過があり、今も議論があるところです。現実的にはどちらか一方ではなく、「障害」と「個性」の両面を持つと思われます。
ご質問「発達障害は個性?障害?」について、精神科医が10.5分で回答しています。
出演:春日雄一郎(精神科医、医療法人社団Heart Station理事長)
こころ診療所吉祥寺駅前 https://kokoro-kichijoji.com
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(1)はじめに
発達障害は個性なのか、それとも障害なのか。この問いは、医療現場でも、教育現場でも、そして当事者の間でも長く議論されてきた重要なテーマです。結論を先取りすれば、発達障害は「障害でもあり個性でもある」と言えます。ただし、その捉え方は、個人の状況や立場によって異なってきます。
(2)発達障害(ADHD・ASD)について
発達障害の代表的なものとして、ADHDとASDが挙げられます。これらは生まれながらの脳機能の偏りで、通常、幼少期に発見されます。ただし、中には成人後に発見される場合もあります。医学的には完治することはなく、持続的な特性となります。また、ストレスによる二次障害の発生にも注意が必要です。
ADHDは注意欠如多動症と呼ばれ、不注意、多動性、衝動性が特徴です。具体的には、ミスや忘れ物が多いといった症状が見られます。一方、ASD(自閉症スペクトラム)は、社会性の障害や特定のものへのこだわりが特徴で、場の空気を読み取れない言動などが目立ちます。
(3)発達障害は個性?障害?
①日本での議論の経過
日本における議論は、大きく変遷してきました。かつては「発達障害は治らない障害である」という医学的な見方が主流でした。診断時に医師から「治らない」と告げられ、当事者が困惑するケースも少なくありませんでした。このため、「診断を受けても意味がない」「むしろ自信を失うだけ」という批判も生まれました。
その後、発達障害への理解が進み、「改善する個性」という見方が広まっていきました。発達障害ブームとも言える社会現象の中で、医学的な「治らない障害」以外の視点が求められたのです。啓発活動を通じて、発達障害の特性は工夫次第で改善できるという認識が広がり、「発達障害は改善しうる個性」という見方が優勢になっていきました。
しかし近年、「安易に個性と呼ばないでほしい」という当事者の声も聞かれるようになってきました。発達障害への理解が進んだ結果、周囲から「改善できる個性なのだから何とかするように」と言われる場面も増え、障害によるつらさが理解されにくくなっているという指摘もあります。
②外国(アメリカ等)での議論の経過
アメリカなどでも同様の議論の変遷がありました。当初、発達障害は主に「自閉症」に限定され、治らない障害として定義されていました。このため強い偏見も生まれ、当事者が社会から隔離されるような状況も見られました。
1990年代以降、「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」という考え方が広まり、発達障害は「違いであって障害ではない」という見方が強まっていきました。DSM-5による診断範囲の拡大も相まって、「発達障害個性論」が勢いを増していきました。近年のアメリカのドラマなどでも、発達障害のある人物が「変わり者だが才能もある個性的な存在」として描かれることが増えています。
③どちらを重視する意見もありうる
「障害」を重視する立場からは、以下のような意見があります:
- 合理的配慮やサポートを受けるには、障害という認識が必要
- 努力してもできないことがあるからこそ障害である
- 障害として認識し受け入れることが、改善や社会適応の第一歩となる
一方、「個性」を重視する立場からは:
- 取り組みによってかなりの部分が改善可能である
- 社会の中で自分の尊厳を守るには、「個性」として受け入れることが必要
- 支援される立場ではなく、自分の力で貢献し居場所を築いていくために「個性」という捉え方が重要
この立場の違いは、障害の程度によっても異なってきます。比較的症状が軽い場合は「個性」という立場を取りやすく、重い場合は「障害」という認識が強くなる傾向があります。ただし、第三者が当事者に一方的な立場を押し付けることは避けるべきです。
(4)発達障害を受け入れるときは「障害」と「個性」の双方を受け入れる
発達障害の診断を受け入れる過程は、以下の3段階で考えられます:
1. 受け入れの段階
- 個性だけでは説明できない影響がある「障害」であることを認識
- これまでの自分や周囲への影響を受け止める
- 今後も付き合っていく「個性」としても受け入れる
2. 取り組みの実践
- 工夫や反復による特性の改善
- 自分の強みとなる特性の発見
- 社会との接点の模索
3. 限界の認識と適切な環境の模索
- 改善しきれない限界の受容
- 改善した点と限界の両方を自分の一部として認識
- 自分に合う環境を見つけ、ベストを尽くす
(5)結論:発達障害は「障害」であり「個性」
発達障害は、乗り越えられない部分がある「障害」である一方で、改善の余地があり、強みにもなりうる「個性」としての側面も持っています。両者は対立的に捉えられがちですが、実際には程度の差こそあれ、両方の側面を持っています。
障害の重さや年齢によって、どちらの側面が強く出るかは変わってきます。例えば、症状が重い場合や子どもの場合は「障害」としての側面が強く、症状が軽めの場合や成人の場合は「個性」としての側面が強くなる傾向があります。
(6)まとめ
発達障害が個性か障害かという議論は、国内外を問わず継続的になされてきました。時に一方の立場のみを強調して対立構造が生まれることもありますが、実際には両方の側面を持ち合わせています。発達障害の診断を受ける際には、この両面性を理解した上で、改善に取り組みながら、自分に合った環境を見つけていくことが重要です。
こころ診療所グループ(医療法人社団Heart Station)
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【監修者】
医療法人社団Heart Station 理事長 府中こころ診療所院長 春日雄一郎
精神科医(精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医)
2005年東京大学医学部卒業、NCNP病院、永寿会恩方病院等を経て、2014年に府中こころ診療所を開設、その後医療法人化し理事長に就任、2021年8月に分院「こころ診療所吉祥寺駅前」を開業。メンタルクリニックの現場で、心療内科・精神科の臨床に取り組み続けている。