本日の動画では、脳卒中は「治る?治らない? VS 治す?治さない?」というテーマを掲げ、「6か月の壁」や「予後予測」にも触れつつ、言葉の定義や誤解を考えてみたいと思います。
■本日のテーマ
①神経細胞と連絡→ここが損傷:脳細胞は再生しない=治らない
②運動は多数の細胞を介する→1~2つ損傷しても機能は保たれる
③動作は「文脈」と「多関節運動」と「システム」で成り立っている
皆さんは、脳卒中の後遺症が「治るか・治らないか」と考えた時に、頭の中にどんなイメージを持っていますか。各自が考える「治る・治らない」の定義はバラバラで、言葉の持つ意味も違うと感じています。
脳卒中を発症した後、病院でドクターから「もう治りません」と告げられた事がある方もいるかもしれませんが、「治らない」とは具体的にどんな状況を指しているのでしょうか。
脳血管疾患により壊死した脳の細胞は残念ながら再生しません。
これを指して医師が「治りません・以前のようには戻りません」というのは正しいです。血流が滞った部位が担っている機能は治らないという見立てをします。
一方で、脳卒中の後遺症である"内反尖足やマヒが治るか・治らないか"は別の話で、脳細胞の損傷とは切り分けて考える必要があります。
現代医学では、ヒトの身体活動に関して100%分かっている事は殆どありません。腕を動かす動作ひとつとっても、その詳しいメカニズムは解明されていないのです。
ご存知の方も多いと思いますが、我々には自然治癒力が備わっており、骨折したり、ケガをしたりした時でも、時間の経過と共に自然回復していきます。あくまでも治すのは自分自身です。
翻って、『脳卒中で身体が動かない』とはどういう状況か。
腕を曲げる動作をする時、大脳の一次運動野から腕を曲げるよう命令が下り、関節運動が起きます。専門的に言うと、上腕二頭筋の筋肉が収縮します。
しかし、片麻痺者の方で腕を曲げることはできても、モノを掴んだり、指先でつまんだり、手を空間に保持したりという日常生活動作ができない方は多くいます。生活に必要な動きとしては不十分です。
先に述べたように、脳の神経細胞が壊死しまった場合、元に戻すことはできません。脳細胞には、骨や皮膚のように再生する能力が無いと言われているからです。
しかし、神経細胞と神経細胞の繋がりは再生することが知られています。
そこで、脳卒中のリハビリでは、残存している脳細胞から指令を出す「脳の可塑性」に着目して反復練習を重ねていくわけです。腕を曲げたり、ペットボトルを掴んだり、お箸の練習をしたり...
動画では例として、可塑性の2つのメカニズムを紹介しました。
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①アンマスキング
②スプライティング
■アンマスキング(Unmasking)
病変などによって機能していなかった神経回路が顕在化し、情報伝達が再開される現象。サイレントシナプスの顕在化とも呼ばれる。
メインに働いている神経回路があることで、普段はあまり活動していない神経回路が、メインの主回路が障害を受けたことで、興奮伝達する役割を果たすようになる仕組み。
■スプライティング
脳卒中など何らかの病態により脳の線維連絡が遮断された際、脳神経細胞の樹状突起が再生し、シナプスを介して電気信号を行う神経修復の仕組み。
これら「脳の可塑性」により、生き残った細胞を使ったり、別の神経回路を通ることで、以前のような動きを再獲得できる可能性がある。
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神経細胞の繋がりが自然修復するのは、脳卒中発症から大よそ2ヶ月(8週間)の間と考えられています。
急性期病院での2週間+回復期病院での2週間の合計約1ヶ月の時期に、自然と手足が動き始めた...という経験のある方は、神経修復(可塑性)によるものと考えられるかもしれません。
8週間までは脳の自然回復が期待でき、その後は機能代償として脳の中でシステムの組み替えが起こり、もう一度手足が動く場合があります。
これが生じるのは、発症からおおむね6か月の間で、後遺症回復の「ゴールデンタイム」と呼ばれる時期です。
これを根拠に、日本の厚生労働省は脳卒中にかかる制度を設計し、『回復期リハビリテーション病棟では上限180日の入院期間』となりました。
神経細胞の繋がり(脳細胞の可塑性)や自然治癒力を踏まえると、僕たちリハビリテーションスタッフは、当事者が日常生活を取り戻すためのお手伝いをすることはできますが、大前提として、当事者の身体状状況に委ねなくてはいけない面があります。
前回の動画【脳卒中の後遺症を理解する①】で、脳の圧がなくなったら、自然と手足のマヒも回復する...という旨を伝えましたが、これも全ての人には当てはまりません。脳圧の強さや部位、出血量、出血部位など、色々な要素が複雑に絡んでいると思われます。
一連のことを踏まえると、発症から1ヶ程度の「予後予測」で、当事者の将来が全て予測できる訳ではないのは容易に想像できます。
「予後」は脳画像などに基づいて、発症からこの位の日数で、この位のレベルに戻って来たらどうこうと判断する「ガイドライン」に沿って判断されます。
発症から1ヶ月経過しても、まだ十分に覚醒していないから、「恐らく今後ずっと寝たきりでしょう」と医師が伝えざるを得ないケースがあるのかもしれません。
冒頭で触れたように、脳科学や現代医学は、皆さんが考えているほど進歩している訳ではありません。まだ完全に解明されていない事の方が多いです。
脳卒中片麻痺へのリハビリも然りで、定型のノウハウが構築されているワケではなく、各療法士がそれぞれの知識や経験に基づいて、各自がベストと思う介入を患者さんに提供しているのが実情です。
脳卒中の後遺症が「治るのか?治らないのか?」、言葉の定義をしっかり認識するのが大切です。周囲の悲観的な意見を鵜呑みにしたり、惑わされたりするのも危険ですが、客観的事実と希望的観測をごちゃまぜにするのも望ましくない気がします。
建設的なリハビリ計画を立て、自分らしい生活をどう営んでいくのかを前向きに考えるために、動画が少しでもお役に立てれば幸いです。
1:32 多くの方が医療を過信している
2:15 脳卒中の予後予測
4:17 脳卒中後遺症は治る?治らない?
4:56 神経細胞と連絡
7:34 なぜ腕が動くのか解明されていない
8:40 小脳の内部モデル(仮説)
9:56 破骨細胞と造骨細胞(自然治癒力)
11:49 脳卒中で身体が動かないとはどういう状況か
14:23 運動は多数の細胞を介する
16:07 脳細胞のアンマスキング
17:42 脳細胞のスプラウトング
19:03 脳の自然治癒力(発病後2ヶ月間=8週間)
21:43 「6ヶ月の壁」の根拠
22:22 脳卒中片麻痺者の障害像
23:49 動作は「文脈」にで成り立つ
28:05 手を伸ばす:多関節運動
29:11 動作はシステムで成り立つ
30:56 筋力の弱さと勘違いしている
33:39 予後予測にまつわる誤解
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■リハビリスタジオ WillLabo(ウィルラボ)
両国にある自費リハビリ施設です。
のべ40,000人もの利用者にリハビリテーションサービスを提供してきた熟練セラピストが、マンツーマンで質の高いリハビリを提供します。
■代表
山田稔(やまだ みのる)
・作業療法士
・国際ボバース講習会講師会議認定療法士
臨床経験30年
医療機関で18年研鑽を積み、両国で起業し13年
■対応疾患
・脳卒中 片麻痺
・高次脳機能障害
・パーキンソン病
・変形性股関節症
・ガン悪液質症候群など
※その他障害や疾患もご相談下さい。
■ウェブサイト
リハビリスタジオWill Labo
https://willlabo.com/
リハビリ職人育成講座
youtube.com/@willlabo9717-r3r
OT.PT.STのためのリハビリ職人育成講座
https://www.willlabo.online/
療法士向けセミナー
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ご予約
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※オンラインリハビリ:1時間 7,700円
お問合せ
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■注意
動画では臨床経験から得た経験や知識を元に情報発信をしています。
各自の身体状況は直接評価しないと分かりませんので、あくまでも参考情報としてご覧下さい。
動画内でご紹介した事例や自主トレの効果には個人差があり、すべての方に効果を保証するものではありません。
実践される場合は、安全を確保し、必要に応じて担当セラピストや主治医に相談の上、実施するようにして下さい。