【スーパーGT】愛称・ホピ子 マシン炎上、資金難、参戦断念…「戦うプライベートチーム」土屋武士監督が語る2024シーズン復活の軌跡
5月4日(土)、富士スピードウェイで行われたスーパーGT第2戦。決勝レースを前に、「ホッピーチームつちや」の監督、土屋武士(51)はスタッフの前でこう切り出した。
「まずはこのレースはチェッカーを受ける。これが一番の目標。皆さんの前でチェッカーを受けたいというのがまず目標、第一に」
この日から約1カ月前の3月24日。
富士スピードウェイで行われた開幕直前の公式テスト。
取材班が最初に出会ったチームのマシンは、まだ完全なカラーリングを施していない、真っ黒なボディに包まれていた。
降りしきる雨の中、周回を重ねる黒いマシンを、我が子のように見つめていた土屋監督。
「これが本当のシェイクダウン(初走行)になるんですけど。こうやってこの場にいられることというのが、すごく幸せなことなので」
開幕直前でマシンの開発・セッティングを急ぐ時に、「この場にいられて幸せ」。
優勝を目指すべきレースで、「チェッカーを受ける」ことが目標。
果たして、このチームのここまでに、何があったのか。
GT300クラスに参戦する「ホッピーチームつちや」の拠点は、神奈川県藤沢市にある工場、つちやエンジニアリング。
1971年、土屋監督の父・春雄さんが創設。自動車メーカーなどの大資本に頼らず、自らでクルマを作り、職人の技術と工夫でレースに勝つ。
町工場の小さなチームは、「戦うプライベーター」と呼ばれ、50年以上に渡り、レース界で挑戦を続けてきた。
父親の作ったそのチームを受け継いだのが、二代目・土屋武士監督。
職人魂の象徴でもあるそのマシンは、チームのメインスポンサー名にちなんで「ホピ子」という愛称でファンに愛されていた。
しかし去年8月6日、富士スピードウェイで行われたスーパーGT第4戦。
土屋監督はホピ子の見たくない姿を見てしまう。
「8月6日、もう脳裏に焼き付いていますけど、レース中盤でエキゾースト(排気系)のトラブルからクルマに火が付いて全焼という。本当に悪夢みたいな」
炎と煙を上げて燃えるマシン。ホピ子は全焼。チームは第4戦以降のレース参戦中止を余儀なくされた。
チームには新たなマシンを用意する資金は残っていなかった。
これがプライベーターの限界なのか。
暗闇にいたという土屋監督を救ったのは、“ホピ子復活”を望むファンの声だった。
「SNSでもたくさんのファンの方が「辞めるな」と。これだけのたくさんの人に望まれている、そういう気持ちに対して自分ができることは、前に進むしかない」
ファンに背中を押された土屋監督が立ち上げたのは、「ホピ子復活プロジェクト」。
そこには熱烈なファンや関係者から約3000万円の支援が集まった。
9月、チームに光が見えた。
「まずは皆さんの想いに応えていく。このクルマを復活させて、レースにまた出ていく」
ホピ子を再びレースへ。
マシン制作を担ったのは、職人魂を受け継ぐ、土屋エンジニアリングの若手たち。
炎上から奇跡的に残ったメインフレームを元に、マシンの約9割を新たに製作した。
「戦うプライベーター」、チームつちやの日常が帰ってきた。
こうしてチームは3月24日、開幕直前の初走行に漕ぎ着けたのだ。
そして先月14日、岡山国際サーキットで行われたスーパーGT2024シーズンの開幕戦。
そこには、真っ黒ボディから、カラーリングもバッチリのホピ子の姿が。
このレースで見事14位完走。ついにレース復帰を果たしたホピ子。
チームにも久々に活気が戻り、土屋監督の声も弾む。
「復帰戦というか、開幕戦はもっと感傷に浸るのかなと思っていたんですけど全くなかったんですよ。もうレースがしたいというか、正直レースに対して苦しんでいた自分もいたので、またレースが大好きという自分がすっごい久しぶりに戻ってきたというのは、そういう風にさせてくれたのはこのホピ子だし、皆さんの想いだし」
そして5月4日、スーパーGT第2戦当日。
去年8月、ホピ子が炎上した富士スピードウェイで迎えた決勝レース。
土屋監督の想いは。
「とにかくチェッカー、チェッカーを。やっぱりここに戻って来られて、まずチェッカーを受けるというのが大きなハードルだと思うので、(去年)受けられなかったチェッカーを受けたい」
ホームストレートを挟んだ、チームのピット真正面の芝生スタンド席。
そこにはホピ子に想いを馳せる、ファンの人たちがたくさん集まった。
「まずはええと…(声に詰まる)帰ってきてくれて、ありがとうです」
「無事完走。無事帰ってきて欲しいです。また元気な姿が見られるだけで嬉しいので」
ピットにいる石渡美奈共同チームオーナーも、ホピ子を撫でながら感慨深げだ。
「いやー良かった良かった。本当に皆さんのお陰でホピ子は帰って来られました」
そんな人々の想いを乗せて、ホピ子が富士のコースを走り出した。
あの日、受けられなかったチェッカーフラッグを目指して。
決勝は3人のドライバーが繋いでいく3時間レース。
そして、あの悪夢から8カ月。
見事25位で、目標のチェッカーフラッグを受けた。
土屋監督もピットウォールに駆け寄り、スタンドのファンに手を振る。
「レースで完走するのって割と普通のことだったと思うんですけど、やっぱり嬉しいですね」
「あの出来事があったこの富士で、やっとちょっとだけ皆さんに恩返しできたかな。もっとみんなが喜べるように、やっぱりそういうレースがしたいですね」
フロントウィンドウ上部に貼られたステッカーには「Racingagainwithyou!」の文字が。
今度はホピ子がみんなの背中を押して走る。
「もうなんかね、(ホピ子に)お尻を叩かれている感じがするんで。「お前らもっと頑張れ」みたいな。頑張らないとダメですね」
6月2日のスーパーGT第3戦決勝に向けて、土屋監督も前を向いた。
(映像提供:GTA)
「MONDAY MOTOR SPORT」
フジテレビ系「FNN Live News α」内で放送
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スーパーGT2024
6月1日(土)~2(日)
第3戦 鈴鹿サーキット
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