どうやったら自分を理解できるのか? 自己理解とは何か? #早稲田メンタルクリニック #精神科医 #益田裕介 / What is self-understanding?
01:18 診断から気づくこと
04:12 心理学的アセスメント
05:11 自己理解を深める視点
本日は「自己理解とは何か?」というテーマでお話しします。
「自己理解」については終わりはありません。
どこまでも深く知ろうと思えば知ることができ、終わりがないものです。
終わりはありませんが、妥当なラインはあります。
これくらい知っておいた方が良い、これくらい知った方が社会で生きやすい、病気を抱えている人は健康な人よりももう少し自分の心や自分のことに詳しくなければいけない、ということがあります。
その妥当なラインまで一緒に付き合うのが精神科の治療です。
ではどうやって自分を知れば良いのか、どうやって自分の長所欠点が分かれば良いのか、ということをお話しします。
珍しい話をするつもりではありません。いつも言っている話です。
ただ、まとめて聞いたことは案外ないかなと思うので今回お話しします。
■診断から気づくこと
精神科で自分を理解する上で一番大事なポイントは「診断」です。
どうして悩んでいるのか、どういうことが原因で苦労しているのか、困っているのか、ということを精神医学ではどのように診断されるのかということが大事だと思います。
困っている人を精神科医はこれまでの歴史の中で分類してきました。
その上で、こういうタイプの人にはこういう治療をすると良くなった、不安が解消された、苦しみを軽減できた、というノウハウを患者さんに提供するのが精神科医の仕事であり、すごく意味のあることだと思います。
「診断」を理解する。
診断してもらい、その診断結果を自分に当てはめて理解していくことがすごく重要です。
診断が分かれば同じような病気の人はどういうことをしていたのか、という集合知や経験知を使えるので、自己理解が深まっていきます。
例えば、うつ病の人には真面目な人が多い、ということを知るのも1つの自己理解の方法かなと思います。
「うつ病」と診断された
→うつ病というのは真面目な人が多い
→自分もそのタイプに当てはまるな
と自己理解が一つ進みます。
これは案外バカにできません。
うつ病の人すべてが真面目すぎるということはありませんが、1つのヒントになるかなと思います。
占いなどよりも全然ヒントになると思います。
患者さんと喋っていると教科書通りのことが多いです。
摂食障害の人には負けず嫌いが多いなど。
どうして私の性格をすぐに見抜けるのですか、と患者さんに言われることはそんなにないですが、そういうことを言われるときには、それは教科書に書いてあるから、典型的な感じだから、とは言いませんが、思ったりしています。
診断など精神医学的なことが分かると、生物学的・心理学的・社会学など背景にある学問のことも知れますし、そういう学問のことを知ることで相対的に人間とはどういう生き物なのか、ということが分かってきます。
それは自己理解に到達するための重要なアプローチの一つかなと思います。
■心理学的アセスメント
認知の歪みなど、いわゆる心理学的、精神療法的アプローチからくるアセスメントも重要かと思います。
例えば、白黒思考が多い、ゼロ-100思考、投影が起きている、防衛している、病気を否認している、共依存になっているといった、精神医学の中で使われるアセスメント、今起きている心の動きを理解する上での現象や本人の特性のことも重要かと思います。
この診断や認知の歪み、精神現象を表した描写は、教科書的な範囲で精神科医ならば学ぶことです。
■自己理解を深める視点
では、患者さんの自己理解とは何でしょうか。
「あなたはこういう病気で、こういう認知の歪みがあります」と伝えても、それだけで「ああ、私は発達障害だからこだわりが強いんだな、じゃあ明日からなくそう」とこだわりがなくなるかというと、そういうことはありません。
診断から理解できることだけだと、自分をすごく理解したという感じはしない。
自分のことを分かるきっかけにはなっても、100%分かった、ということにはならないかと思います。
臨床的な話はどちらかというとこちら側(ホワイトボード下側)が多いです。
この辺りは患者さんが語ったりすることは少ないです。
調子が悪いときは語れないですし、自己理解が弱い人、病気が長引いている人は話がなかなか進んでいきません。理解しにくいことのようです。
例えば、「家族の中の自分」はどういう存在だったのか、という話です。
家族はどういう人だったのか、お父さんはどういう人だったのか、お母さんはどんな人だったのか、家族が持つ歴史はどんなことだったのか、パワーバランスはどうだったのか、お兄ちゃんが強すぎたのか、お兄ちゃんのことばかり家族が注目していて私は無視されていたのか、虐待があったのか、虐待で傷付いてしまって家族のことが見えていないのか等々。
自分を理解する上で家族の歴史はどうだったのか、家族の中で自分の立ち位置はどうだったのかということは重要です。
家族とはどういうものなのかということを理解することも重要です。
昔はお父さんが一番偉く(家父長制)、お父さんが全部決めていました。
三世代、お爺ちゃんお婆ちゃんと一緒に暮らしていたところから核家族化しました。
お父さんお母さんと子供たちで暮らすようになりました。
磯野家のような形から、野原しんのすけの家のような核家族に移っていきました。
核家族というのも、岸田首相が言っている新しい資本主義のような世界観でもう古いです。
核家族なんかもう維持できません。
お父さんが働きに行って、お母さんは専業主婦で、一軒家があって、子供たちがいて、という世界ではもうありません。
共働きが普通ですし、子どもは鍵っ子が普通です。
貧困的な要素、大学生や20歳を越えても子どもたちはお金がないので一人暮らしがしにくい、高齢の両親(祖父母)を介護しなければいけない、介護はできないからヘルパーさんを頼む、遠くに住んでいる親の介護に行くという新しい家族像に変わってきてはいます。
こういう社会的な変化も知りながら、今の自分たちはどういう家族を作ったのか、どういう家族の中で生きてきたのか、ということを知ることが重要です。
次に「ライフステージの中の自分」です。
自分の年齢、その年齢でやるべきことは何か、その年齢で果たすべき課題は何なのか、ということを知ることが重要です。
例えば思春期だったら思春期らしい悩みがあるし、20歳なら20歳らしい悩み、大学3年生4年生なら就活の悩み、大学院へ行くべきかという悩み、30代だと結婚の悩み、35歳くらいだと妊活の悩み、離婚の悩み、不倫の悩み等々、年齢ごとによくある悩みがあります。
よくある悩みと共に、果たさなければならない責任もあります。
20代なら自分を確立していく、自分の価値観を見つけていく。
30代ならそれを守っていく、形にしていく。
50歳になってから新しいことに挑戦することもありますし、できることだとは思うのですが、そうは言っても50歳には50歳なりの悩みがあったりします。
自分の人生の中で自分は今こういう立場にあって、こういうことをすべきなのかな、将来はこういうことが起きるのかな、これまでこんな人生だったなということを理解することは重要です。
「社会や業界、会社のこと」を知る必要があります。
そもそも自分のいる業界はどんな業界なのか、ウチの会社は変わっているのか、ブラックなのかホワイトなのか、そういうことを知るのも重要です。
それを知ることで、自分のことを知ることもできます。
例えば銀行で働いていて、銀行というのは古くて堅い業界だな、だから上司から書類のことで非常に細かい指摘を受けて腹が立ったとか。
でもそれはそういうものです。
上司はどうして分かってくれないのだろうと悩むのではなく、この上司はこの業界だったからこういうことを言っているのだ、と俯瞰的に見る視点も重要です。
俯瞰的に見ることで自己理解が深まったりするので、重要かなと思います。
臨床場面ではこのような話もします。
精神科医は結構耳年増になりやすいです。
なぜかというと患者さんが、自分はこういう業界にいて、でも家ではこんな問題が起きていて年齢的にもこうだから、そろそろ転職すべきかな、ということを色々聞いている中で分かってきています。
患者さんが「自分はうつ病だからこういう認知の歪みがある」ということをメインに話すことはあまりありません。
それは最初の5回、10回で終わって、だいたい患者さんと喋る話はこちら側に移ります。
治療が進んでいくときにはこの後半のことを話すことが多いです。
そういう風に話していくと自己理解が深まっていきますし、自己理解が深まっていくと他者の理解ができるようになります。
自分はこういう人生だったけれども、10個上の人はこういう社会背景だからこういう人生を送っていたのかな。
そいうことが分かり自他が理解できてくると、しなやかに考えられるようになるので、悩みが減るということになると思います。
自己理解というのものは完璧に100%言語化できるものでもないし、言語化したところでしっくりくるかどうかは分かりません。体感的なものなのです。
概要欄続きはこちら(字数制限のため)
https://wasedamental.com/youtubemovie/5552/#c01
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精神科医の会話術③自己理解編
https://youtu.be/ZcCvEEE0le4
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『精神科医がこころの病気を解説するChとは?』
一般の方向けに、わかりやすく、精神科診療に関するアレコレを幅広く解説しています。動画における、精神分析や哲学用語の使用法はあくまで益田独自のものであり、一般的(専門的)な定義とは異っているところもあります。僕がもっとも説明しやすいとたまたま感じる言葉を選んだだけなので、あまり学術的にとらないでいただけると嬉しいです。
早稲田メンタルクリニック院長 益田裕介
『自己紹介』
益田裕介
防衛医大卒。陸上自衛隊、防衛医大病院、薫風会山田病院などを経て、2018年都内で開業。専門は仕事のうつ、大人の発達障害。といいつつ、「なんでも診る」ちょっと変人よりの町医者です。
趣味は少年ジャンプとお笑い。キャンプやスキーに行きたいです。
2020年6月5日より断酒継続中。
【参考】
厚労省みんなのメンタルヘルス https://www.mhlw.go.jp/kokoro/
カプラン 臨床精神医学テキスト第3版
倫理規定について https://note.com/mentalyoutubers/n/nb130991f3fa4
【コメントについて】
・コメントは承認制です
・コメントは益田が目を通していますが、手が回らず、質問にはお答えできません。ご理解よろしくお願いします。
・(のちのち)自分や他人を傷つける可能性のあるものは承認されません
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