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【片麻痺者が動けないのはなぜ?③】「歩けない・動きづらい」は“寝起き”から始まっている!自分の身体を取り戻していないまま動作練習だけしてませんか?

WillLaboのリハビリ講座 1,581 lượt xem 1 month ago
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今回も「Let's ケーススタディ 脳卒中リハビリテーション」の事例を取り上げ、「歩けない・動きづらい」は“寝起き”から始まっている!」について解説します。

◆p88 第3章:臨床ケーススタディ
日常生活に活かす脳卒中後片麻痺者への介入の考え方
1.麻痺側下肢が浮き上がる立ち上がりを姿勢調整から改善する
50代 男性 会社経営 右被殻出血 左片麻痺
https://x.gd/Gx0bo
※各チャプターの最後にQRコードがあり、それを読み込むと実際の介入場面が閲覧できます。

一般的なADL自立度の判断基準であるFIMやBIで「自立」と判断されても、退院して自宅に帰宅すると思うように動けないという方がいます。

特に、脳卒中片麻痺の場合、バランスの不安定さや過剰努力による動作遂行で、「自立レベル」とは言い難い状態を観察するケースがあります。

それと同時に「マヒ」に対しては、皆さん誤解を持っているような気がしています。
脳卒中の後遺症からくる「マヒ」の出方は人それぞれです。

随意性はある程度残っているものの、痙性麻痺があるので硬さが邪魔をして動けなかったり、麻痺側の足で支えられないので歩きにくかったり、足が前に振りだせないからつまずいたり...色々と悩みをお持ちと思います。

それゆえに、「つま先が上がるようになったらいいのに」とか「足がまっすぐ出せるようになったらいいのに」と局所的な動作に目が行きがちになります。

このような時、「マヒがあるから仕方ない」と理解するか、「練習方法が間違っているのかも」と理解するかでリハビリの方法や改善レベルは変ってきます。

冒頭に記載した症例、「50代 男性 会社経営 右被殻出血 左片麻痺」(p88 )の方は、立ち上がる際、麻痺側の左足がヒュン!と浮いてしまう方でした。

この現象が生じているのは、「寝起き」という基本動作が上手に出来ていないのが原因でした。

今日の動画では下記に沿って、詳しく解説していきます。

■テーマ3つ
①取り敢えず動かす運動は出来ている→本当にそれで良いのか?
②正常とはパターンではない→変化に対応する反応
③麻痺手が残るのは結果

僕たちには「身体図式」という、身体の感覚情報に基づいて作り出す、神経機構の概念があります。

「身体図式」は、今どのような姿勢をしているのか、身体の各パーツがどのような位置関係にあるのか、動作を行うには身体のパーツをどこからどこへどのくらい動かせば良いのかを、直感的に知るための基準となり、頭頂葉や運動前野で作り出されます。

端的に言えば、“今自分の足や手がどこにあるのか分かる”のが「身体図式」です。

脳卒中片麻痺になると、麻痺側半分の身体図式がない状態になる事もあり、筋から入る感覚が乏しくなります。しかし、身体の感覚がなくなってしまったり、感覚鈍麻してしまっても、適切な練習を重ねることで徐々に感覚が認識できるようになるケースがあります。

リハビリでは、自分の身体の感覚を取り戻す事が重要なのですが、これを阻む問題も存在しています。

それは「FIM」です。

脳卒中患者の日常生活動作(ADL)を評価するひとつの指標として、「FIM(機能的自立度評価表)」が各病院で導入されるようになったことは、以前の動画でも触れました。

【脳卒中の後遺症を理解する④】急性期・回復期・維持期で持っておきたい視点・FIM評価の妥当性と当事者個人の機能最適化
https://www.youtube.com/watch?v=W6zEvkmxnHo&t=1156s

本来であれば、自分の身体を取り戻すための練習をするのが優先ですが、FIMの点数を上げることばかりを念頭に置いた結果、自分の身体や感覚が分からない状況で「動作練習」だけをムリヤリさせられてしまう場合があるようです。

「動作練習」によりFIMの評価点数を上げて、早期復帰を目指すのは勿論大切です。しかし、身体感覚を取り戻さずに「動作練習」だけを繰り返しても、動きづらさは残ったままです。そして、大抵の人が、その事実を無視し、思うように動けていないという感情を引きずっているように見えます。

こうした背景には、「動作練習」の他に「小脳の内部モデル」が関係していると考えます。

「内部モデル」とは、分かりやすく言うと「運動記憶」のことです。
「内部モデル」は身体の動きや外的環境に対する予測・補正のための神経回路で、実際の運動とその結果を比較し、運動指令を適切に調整したり、誤差があれば修正したりする機能です。

「内部モデル」は感覚を必要としない運動記憶なので、脳卒中になる前は、寝たり、立ったり、起きたり、着替えたり、食事をしたりという動作を無意識のうちに行うことが出来ていました。

しかし、脳卒中になり脳にダメージが生じると、どうやって動けばよいのか、今さら頭で考えてようとしても分からないのです。

多くの方は麻痺手・麻痺足を代償したり、何らかの方法でダマシダマシやりながら過ごしているようです。(①取り敢えず動かす運動は出来ている)

例として、手すりをグイっと引っ張って起き上がる人がいます。
非麻痺側の手で引っ張ると、それに伴って、麻痺側の手や腕も後ろに引っ張られます。
僕が臨床で確認した限り、このやり方だと、健常者でも必ず手が後ろに行ってしまいます(③麻痺手が残るのは結果)

では、手すりにつかまらず、正常な動作パターンで起き上がることが望ましいのか...と言われるとそうではありません。

「筋肉」が感覚の変化に伴って反応することが大事なのです。
(②正常とはパターンではない→変化に対応する反応)

動くための手段は色々あるので、動作パターンが正常である事にこだわる必要はないです。

因みに、僕は起床する際、足を一旦振り上げ、降ろす時の勢いを使ってムクッと起き上がる癖があります。このように、動きの「形」は正常じゃなくてもいい。

正常であるべきなのは、「変化に対する反応」です。

寝たり起きたりする際、身体が地面や布団に触れている「接触面積」が沢山あります。布団から出ようとしたり、時計に腕を伸ばして時間を確認する際にも、筋肉が反応して感覚の変化が生じます。

しかし、脳卒中の後遺症により筋肉が反応してくれないと、身体は自由に動かないという感覚に陥ります。

我々には「内部モデル(運動記憶)」あるので、病前は何を考えなくても自由に動くことができました。

無意識にやりたい動作ができたので、以前のような気持ちのまま、多少動きづらさや不自由さを抱えても、取り敢えず寝起きが出来るのでいいよね、仕方ないよね、と自分にOKを出してしまうのです。

本来であれば、変化に対して筋肉が反応する練習をしなくてはいけないのですが、非麻痺側の手でグイっと押し上げたりして、力づくで動く方法を取ってしまいがちです。

療法士から筋肉が反応する練習を教えて貰っていないのと、力づくで動く代償手段を新たな内部モデルとして獲得してしまっているからなのでしょう。

これとは別に、「自分が上手く動けていない」という状況を直視できない理由として、『1日も早く回復して日常生活に復帰したい』という気持ちの焦りもあると思います。

職場への復帰や家事・育児をこなす等、元の生活に直ぐに戻りたいのは皆さん同じです。

リハビリでいくら「丁寧にゆっくりやりましょう」と言われても、内心では、もっと早く、パッと動いて活動したいので、力づくでもムリヤリでも動ければいいよね、と感じている面が強いのではと推察しています。

力づくや拙速なリハビリは返って逆効果です。

丁寧にゆっくりと、接触感覚の変化に反応する基礎練習をしておかないと、起き上がりや寝返り動作の行き詰まりが、立位や歩行にもろに影響を及ぼしてしまいます。

「ムリヤリでも動ければいいじゃん!」という練習を繰り返してしまうと、座って立とうとした時に、相当の労力や努力を必要としてしまいます。

すると、本来残されているはずのマヒ手の随意性の潜在能力が活かせなかったり、もっと上手に歩けるはずなのに分回し歩行になってしまったりと、遠回りになってしまう気がしています。
皆さんは今よりももっとラクに、軽やかに動けるハズです。

身体の接触面積や変化に合わせて筋肉の反応が順次変わり、出力調整ができるような状況になれば、痙性も緩和されます。

今現在、自主トレやリハビリで頑張ってらっしゃる方のやり方や手法を否定するつもりは一切ありません。間違った方向で努力しているのであれば、それを修正して、違うベクトルで練習を重ねた方が、この先もっとラクに楽しく動けますよというのをお伝えしたく動画発信しました。

皆さんが悩んでいる「動きづらさ」は、「つま先が上がらない」とか「足がまっすぐ出せない」というレベルではなく、もっと手前の段階=寝起きから始まっている、ということを認識して頂ければと思います。

話が随分と長くなりましたが、具体的な解決方法については、来週以降お伝えしますね!

■身体図式(body schema・ボディスキーマ)
脳が身体の感覚情報に基づいて作り出す、自分自身の身体の空間像のこと。
身体の位置や動きを無意識的にモデル化したもの。
神経学者のヘッドとホームズが「体位図式(postural schema)」として提案した概念に由来する。

自分の身体が今どのような姿勢をしているのか、身体各部位がどのような位置関係にあるのか、ある動作を行うには身体の各部位をどこからどこへどのくらい動かせば良いのか...を直感的に知るための潜在的な基準。

身体図式は、筋肉や骨、靱帯、腱など関節を構成する組織や、足裏、眼、三半規管(平衡感覚)、記憶などの情報に基づき、大脳皮質の頭頂葉や運動前野で作り出される。

◇身体図式の役割
・身体の傾きや位置のズレを感知して修正する
・空間や身体の上にある物体の位置の認識に役立つ
・無意識的に姿勢や運動を調整する

◇身体図式の障害により生じる事
・運動計画の困難(失行症)
・身体無視(身体の片側に注意を払えない)
・幻肢症候群(切断された肢体の知覚)

■内部モデル
小脳が持つ、身体の動きや外的環境に対する予測・補正のための神経回路。
実際の運動とその結果を比較し、運動指令を適切に調整する。
具体的には、身体の動きに関する情報を予め予測する「モデル」として機能し、運動をスムーズに実施するための誤差修正を行う。
ヒトが日常生活を営む上で、運動遂行の精度や環境適応、課題解決に重要な役割を果たす。

2:43 歩けないのは「寝起き」が上手に出来ないから
3:52 本日のテーマ3つ
5:25 頭頂葉:身体図式(神経機構の概念)
6:57 感覚鈍麻・感覚脱出でも存在
8:48 麻痺側半分の身体図式がない→取り戻す練習
9:10 FIMの功罪・動作練習
10:29 小脳:内部モデル(運動記憶)
11:28 手すりを引っ張って起き上がる・麻痺手が後ろに行く
12:29 正常パターンではなく変化への対応
14:58 麻痺側が重たい
16:29 力づくで動いてしまう
17:12 早く回復したいという焦り
20:06 動きづらさは寝起きの段階から始まっている

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